文系最強の頭脳の持ち主、東浩紀氏。東京大学大学院在学中に著した博士論文『存在論的、郵便的』はサントリー学芸賞、2010年に上梓したSF小説『クォンタム・ファミリーズ』では三島由紀夫賞を受賞。さらにこの数年は原発事故の問題に取り組み、討論番組では敵なしの論客でもある。そんな東氏の初の人生論(!)が本書だ。
東氏はインターネットを使いこなす批評家として著名だが、本書では「ネットで情報を収集し続ける批評家であることをやめた」と書いている。東氏は「もっとネットから離れたほうがいい」と話す。
この数年でインターネットは大きく変貌した。ネットサーフィンは死語となり、いつもの人間関係から、同じようなネタを「おすすめ」されるばかり。興味の幅を拡げるものではなく、人を狭い世界に閉じ込めるものになった。
「この本は旅のすすめです。ネットにはノイズがありませんが、旅先では偶然の出会いがある。その結果、それまで思いつかなかった検索ワードを手に入れることになる。ネットから離れることで、より深くネットに潜れる」
いわばネット時代の「百聞は一見にしかず」の教え。東氏は「人生は“弱い絆”という偶然でできている」と話す。
「僕自身、娘が生まれたり、震災があったり、偶然がもたらす“弱い絆”によって大きく変わりました。計算高い人は、統計的に最適な“強い絆”を強めようとするのでしょう。でもそのほうが危うい」
“批評活動を疎かにして自己啓発本なんて、東も変節したな”と揶揄するファンもいる。
「それで構いません。本書によって、みなさんの人生が少しでも豊かになればと願っています」
(坂本政十賜=撮影)