「いったい何のためにミスを叱責するかを考えましょう。それは相手を変えるためです。本人がその過ちをなぜ犯したかに気づき、これはやってはいけないと思い、自発的に変えたい、変わりたいという気持ちにさせていく。そのためには、主語を『自分』ではなく『相手』にしていくことが大事です」(西任さん)

井上さんも「感情的に怒られると、言葉を受けるほうはずいぶん辛い。相手の成長を考えて、理性的に叱ることが大事です」とアドバイスする。ポイントは、叱る理由と変えるべき点を明確に示すことだ。

「いったん決めたら納期は必ず守る。どうしたら守れるかを逆算してスケジュールを立てるんだ。そういう努力をしているかい? 習慣化して癖付けしないと、いつまで経っても仕事のスピードは上がらないぞ」

このように叱れば、相手に反省をうながすことができるだろう。

そもそも「叱る」目的とは、部下を一人前に育てることだ。すると、次のような考え方も成立する。江上さんがいう。

「大リーグだって、走攻守がそろったイチローみたいな万能選手はほかにいないわけです。会社でもそうで、走るのが速い部下、守るのがうまい部下、打撃がいい部下はいるけれど、パーフェクトな部下はまずいない。たとえば、打撃はよくても守れない部下が引き揚げてきたときに『なんで守れなかったんだ』と詰問するのは馬鹿げています。本人は『せっかくヒットを打ったのに』と不満を持つでしょうし、生真面目な人なら『そうか、守らなくちゃいけないのか』と思い悩み、打撃のほうも調子が落ちてしまう。これまでは、そういう指導が多すぎたと思います」

だから、まずは「あの難しい球をよく打ったな!」と打撃を褒める。そのあとで「ただ、あのあとの守りで、もう少し機敏に動いてほしかったな」と続けるのだ。

「そんなふうにいえば、やる気が出ると思うのですが」(江上さん)

【○】今回の発注漏れについては不注意もあったんじゃないか? 君はどう思う?
【×】なんでこんなこともできないんだ!納期が間に合わなくなったらどうするんだ!

スピーチトレーナー
西任暁子
U.B.U.speech consulting代表。大阪生まれ、福岡育ち。慶應義塾大学総合政策学部在学中にFMラジオのDJとしてデビュー。著書に『「ひらがな」で話す技術』。
 
ネクスト社長
井上高志
1968年、横浜生まれ。青山学院大学経済学部卒業後、リクルートコスモスに入社。97年にネクスト設立、現職。同社は2006年、東証マザーズ上場(現在は東証1部)。
 
作家
江上 剛
1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行に入社。2002年に『非情銀行』で作家デビュー。近著に『55歳からのフルマラソン』など。

 

(永井 浩、ミヤジシンゴ=撮影)
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