トラブル報告、価格交渉、歓送迎会のスピーチ……。オフィスや取引先、接待の場で成功するための話し方を達人に聞いた。

Case4.新企画について相談する
熱意だけでは企画は通せない。トップに「やってみよう」といわせる戦術とは?

相手が「聞きたいこと」を想像せよ

西任暁子さんがスピーチセミナーで強調するのは「誰に伝えるか、何を伝えるか、その結果どうしたいか(=目的)。その3要素を明確にすること」。新企画について相談するときも基本は同じだ。

「この場合、目的は『いいね、やってみようよ』という肯定の言葉を引き出すことです。そのためには『企画を実現することによって、未来はこうなるという絵を相手に描いてもらう』ことが必要です」

では、具体的にどういう話し方をするべきか。西任さんはこうアドバイスする。

「ほとんどの人は自分が『話したい順番』に話してしまいますが、それでは効果的に伝えることはできません。たとえば、時系列に沿って話したほうが簡単だから、人はよく自己紹介をするときに生年月日から話しはじめてしまいます。しかし、限られた時間内に情報を伝え、相手の心を動かさなければいけないという場合には逆効果です。話したい順番ではなく、相手が『聞きたい順番』に述べていくことが大事です」

だから、企画の趣旨や経緯から順に並べていくのは愚の骨頂。相手はそんなことを聞きたいわけではないからだ。

「やりたいのはこういう企画です。デメリットとしてはこういうことも考えられます。しかし、こう対処することで解決できると僕は信じています」

こう話すことで、内容が格段に伝わりやすくなる。問題は「相手が聞きたいこと」をどうキャッチするか。

「相手の立場に立つことです。まずは自分で自分を客観視してみましょう。プレゼンする自分を自分の目の前に置いてみて、『企画のご相談です』といわれた瞬間に何を聞くか。そういうトレーニングをすることで、主観と客観とのギャップが見えてくると思います」

主観に引きずられると企画を通すのも難しい。その点は裁可する側の意見も同じである。井上高志さんが苦笑する。

「若いときは自画自賛というか、独りよがりな企画を持っていきがちです。本人はやる気満々で『これ、いいと思うんですよ』とまくしたてるのですが、客観的な根拠が不足していることが多く、判断するのは難しい。『君はいいと思うようだけど、なぜ?』と答えるしかありません」