トラブル報告、価格交渉、歓送迎会のスピーチ……。オフィスや取引先、接待の場で成功するための話し方を達人に聞いた。

Case2.ミスを叱責する
失敗に気づかせ、成長のために指導するのが上司の仕事。効果的に叱るには?

叱る理由と変えるべき点を明示せよ

叱られることは、決して気分のいいものではない。

「部下を叱るときは公憤なのか、私憤なのかを常に考えました。自分の腹立ちを満足させるために怒っているなら、それは私憤ですからやってはいけない。『あのとき叱られたから伸びました』と述懐する人もいますが、それは結果論で、厳密には叱られたから伸びたのではないと思います。叱られ続けたら、10人のうち9人は萎縮して成長が止まってしまいます」

旧第一勧業銀行で主に企画・人事畑を歩んだ作家 江上剛さんの認識である。スピーチトレーナーの西任暁子さんも次のように指摘する。

「叱るときは『おまえの判断が遅いから納期が遅れたんだぞ!』などと、疑いようもなく『正しいこと』を述べ立てます。それは上司にとって気持ちのいいことです。『俺っていいことをいうなあ』と自己陶酔に陥り、その気持ちは瞬時に伝わります。すると相手の心は閉じてしまい、『叱る』効果はなくなるのです」

とはいえ、仕事をしていくうえでは、部下のミスを指摘し、修正させなければいけない場面も出てくるだろう。やむをえず叱責する。そのときに注意しなければいけないのは、「人格を否定するような言葉は使わない」(ネクスト社長 井上高志さん)ということだ。

たとえば「だからおまえはダメなんだよ。納期に間に合わなくなったらどうするんだ!」というのは、感情的で人格否定的。よくない叱り方の典型だ。

「感情のままに、自分の怒りを発散させているだけですね。どこまでも自分中心の叱り方です。これでは、いいたいことが相手に伝わるはずがありません」と西任さんは辛辣だ。では、どう変えればいいか。