トラブル報告、価格交渉、歓送迎会のスピーチ……。オフィスや取引先、接待の場で成功するための話し方を達人に聞いた。

Case3.頼みにくいことをお願いする
イレギュラーな仕事が発生したときや、ともに汚れ仕事に立ち向かうときに心することとは?

呼びつけるな。自ら歩み寄る気配りを

まずは、悪い例から。急な割り込み仕事を部下にやらせるときに、つい「これ、やっといて」というだけで説明もなく押し付けてしまう。

「ミドルマネジメント層がやってしまいがちなことですが、こんなふうに指示されたら、部下だって『この忙しいときに急に仕事を振られても困りますよ』と言い返したくなるでしょう。その際に『いいからやれ』『上からいってきたことだ』としか返せなかったとしたら最悪です。それではただの伝書バト。管理職がいる必要はないですね」

不動産検索サイトの「ホームズ」を運営するネクストの井上高志社長が断言する。では、何を伝えるべきなのか。

「その仕事の目的や意義を明確にするということです。そのうえで『だから他の案件よりも緊急度と重要度が高まりました』と説明する。さらに『これがクリアできると、君やみんなにとって、こんなふうにいいことがあるよね』と付け加えれば、部下としても腹落ちすると思います。そうなってはじめて『そうですね、なんとかしましょう』と、本人のやる気を引き出せるのです。そういうやり取りがないと、仕事はただの『作業』になってしまい、高い質を期待することができません」

もう1つ、大事なことがある。

「自分から相手のもとへ行く、ということです。イレギュラーな仕事を頼むのに『井上君、ちょっと来てくれ』はまずいでしょう(笑)。自分の席に呼ぶのではなく、逆に自分から相手のほうへ近づいていって『ちょっと、いまいいかな?』と語りかける。そういう気配りも必要だと思います」(井上さん)

旧第一勧業銀行で主に企画・人事畑を歩んだ作家 江上剛さんの経験は、苛烈である。旧第一勧銀が総会屋との癒着問題で揺れていたとき、関係遮断を進めるためのタスクフォースを任されたのが、人事部時代の江上さんだ。まずは行内各部署からメンバー10人を選び出した。身の危険を伴う、文字どおり「頼みにくい仕事」である。