父が壊れていく姿を目の当たりにする

服用した睡眠薬がなかなか抜けず、2日間朦朧とした状態を続けた父は、それをきっかけに認知症を発症しました。

自力で食事ができなくなっただけでなく、私を呼ぶために使っていた携帯電話の操作もわからなくなってしまいました。何か異変が生じても、父は私を呼ぶことができなくなったわけです。といって私も仕事があり、父につきっきりでいることや頻繁に様子を見に行くことはできません。

携帯電話に替わる呼び出しの手段を早急に確保しなければならず、ネットで調べたところ、ワイヤレスの「呼び出しチャイム」という商品がありました。送信機と受信機がセットになっており、送信機のボタンを押すと電波が飛んで送信機の呼び出し音が鳴る機器です。

1万円以上するものも少なくありませんでしたが、2000円程度のタイプもありました。商品説明を読むと、玄関チャイムとしても使えるが、要介護者の連絡手段として人気が高いとあります。送信機は手のひらサイズで、あるのは呼び出しボタンひとつで操作も簡単。「これだ!」と思いました。

すぐにでも必要なのでホームセンターに探しに行こうと思いましたが、長時間家を空けられる状況ではありませんし、目当ての商品がないことも考えられます。機器が届くまでは頻繁に父の様子を見にいくことにして、ネットで購入しました。

その間も父の認知症は進行し会話がかみ合わなくなっていきました。

この日、従弟から電話があり「父親が亡くなった」という連絡を受けました。父にとっては実妹のご主人にあたります。それを父に伝えると、さすがに重大事だけあって理解しましたが、

「葬式はいつだ? 行くから用意してくれ」

というではありませんか。1年ほど前から父は足元がおぼつかなくなったこともあり、弔事は私が代わりに出席していました。まして寝たきりになった今、行けるわけがありません。が、「行く」と言い張るのです。

「お通夜は○日、葬儀は○日だから、オレがお通夜に行ってくるよ」

そう何度も説明して納得してもらいました。が、その後も父の寝室に行くたびに「葬式は行ったか?」と聞かれ、「お通夜は○日だよ。オレが行くから」と答える会話を繰り返しました。