老父に大声あげて怒鳴った理由
また、こんなこともありました。
「おしっこがしたいから、カテーテルを抜いてくれ」というのです。
父は尿が自動的に排出される尿バルーンをつけていました。排尿障害があり、カテーテルを尿道に差し込んで排出する自己導尿をしていたのですが、寝たきりでそれがつらくなりバルーンをつけることにしたのです。
そのバルーンも医師に事情を話し頼み込んでつけてもらったもの。立ち上がるのも困難な父を車椅子に乗せ必死の思いで病院に行き、何時間も待ったうえでつけてもらいました。寝たきりの父がそれだけのことをしたのですから、その日は疲れきったようですし、私もヘトヘトなりました。ただ、バルーンをつけたことで排尿の心配はしなくて済むようになりました。その自動的に排尿できるバルーンカテーテルを抜くと言い出したわけです。
バルーンをつけていても、おしっこをしたいという感覚があるのかもしれません。が、カテーテルを抜いたりしたら、そうした苦労が水の泡ですし、また医師の元へ駆け込むことなります。ボケが進んでいるのだから仕方がないと思っていましたが、さすがにこの時は頭に来て
「おしっこは自動的に出て尿バックにたまるんだから、カテーテルを抜く必要はないんだ。絶対に抜くなよ」
と大声を出してしまいました。
呼び出しチャイムは注文の2日後に届きました。
電池を入れ周波数を合わせテストしてみたところ、1階の父の寝室で送信機のボタンを押すと2階の受信機からは問題なく呼び出し音が鳴りました。また、この機器は呼び出し音がピンポーンというチャイムだけでなく、いくつかのメロディを選択できるようになっていました。
ボタンひとつで呼び出せるうえ認知症が進んでいることもあり、ひっきりなしに呼び出されることが予想できます。夜中にピンポーンでは驚きますし、なるべくイライラしないように選択肢の中から呑気な曲調の「おースザンナ」を選んでセットしました。
呼び出し手段を手に入れた父は案の定、頻繁に私を呼びました。多い時は10分おき。夜中でも、です。その度に私の部屋の受信機から「おースザンナ」が鳴るようになりました。それに応じて降りていっても相変わらず「葬式は行ったか?」。ただ、この頃になるとそう腹は立ちませんでした。諦めの心境もあったでしょうし、「おースザンナ」の呑気な響きが気持ちを和らげてくれたのかもしれません。
叔父のお通夜も終わり、その報告を済ませても父が眠っている時以外は呼び出しは頻繁にありました。