――データのシェアリングに抵抗のある日本の企業は多そうです。

【クキエ】どのデータをシェアするかにもよります。別々の製品を作るA社とB社がともに同じ機械を使っているとしましょう。データのシェアとして好ましいのは、機械が壊れる前に予測できるデータをシェアする方法です。機械が壊れるときは突然壊れるのではなく、まず部品が壊れていく。車の故障も同じです。まずガタガタガタと音がし始めますが、エンジンにセンサーをつけると、何がノーマルでどんな音が出たらノーマルでないかというデータが集まる。そこからエンジンが壊れるかどうかを予測できるようになります。しかし、一つの工場のデータでは予測には到底足りない。データをできるだけ集めることが不可欠なのです。

――ビッグデータの活用により、新興国が優位に立つ可能性はありえますか。

【クキエ】十分に考えられます。事実、中国は国家の誇りをかけて、ビッグデータを活用しようと本腰を入れています。私の本も中国では40万部売れ、中国の国家計画委員会は5万部をまとめ買いしました。インターネットの時代は、中国は西洋を追いかける立場でしたが、ビッグデータを見た瞬間に人口規模の大きい中国こそ勝者になると感じて行動に出た。

日本はビッグデータを活用してきた

――日本では、まだどこかビッグデータを米国の事例だと遠目に見ている傾向がぬぐえません。

【クキエ】「3.11」の大地震の後を思い出してみてください。陸前高田は、地図と実際の状況とに大きな食い違いがありましたが、実際に足を運んだ人によって、橋の破損状況など、最新のデータがどんどん送り込まれて、常に更新されている状態になりました。当時、それはビッグデータと呼ばれてはいませんでしたが、日本はそういうデータを使ってきた。サテライトを使ったカーナビのシステムもビッグデータと称していないだけで、活用方法としてはビッグデータと同じ。日本はパイオニアとして、もっとビッグデータに取り組むべきだと思います。

英『エコノミスト』誌 データエディター 
ケネス・クキエ

『ウォール・ストリート・ジャーナル・アジア』『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』などを経て現職。2002~04年、ハーバード大学ケネディスクールの客員研究員。10年に『エコノミスト』誌に掲載した「The Data Deluge」(データの洪水)は、「ビッグデータ」関連記事として大反響を呼んだ。現在は、『フォーリン・アフェアーズ』『ニューヨークタイムズ』『フィナンシャルタイムズ』など有力紙誌に寄稿し、CNNやBBCでコメンテータとしても活躍。
(宇佐美雅浩=撮影)
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