「気合を入れ直せば戻る」が通用しない
②認知機能の低下
ストレスによる脳のダメージは、日常の認知機能を広範囲に蝕んでいく。影響は大きく3つの領域に現れる。
第一に、判断力の慢性的な低下。
脳が疲れると前頭前野の機能が低下し、扁桃体が優位になる。それは「脳疲労の状態」である。ここで重要なのは、慢性ストレスがこの状態を構造的に固定してしまうということだ。
一時的な疲れであれば、一晩眠れば前頭前野は回復する。しかし、ストレスが数週間、数カ月と続くと、前頭前野の樹状突起そのものが萎縮し、神経回路が物理的に細くなっていく。
すると、たとえ休日に休んでも、前頭前野が本来の処理能力を発揮できない「低出力モード」が常態化する。
これは一時的な不調ではなく、脳の配線が書き換えられている状態だ。だからこそ、「気合を入れ直せば戻る」が通用しなくなる。
重要な案件を前にしても決断が下せない、些細なリスクを過大に感じて動けなくなる――これらは意志の問題ではなく、脳が物理的に変わってしまった結果なのだ。
RAM容量が半分になったパソコンのよう
第二に、ワーキングメモリの劣化。
ワーキングメモリとは、「今この瞬間に必要な情報を一時的に頭に保持しながら処理する」能力のこと。会議で相手の発言を聞きながら自分の意見をまとめる、複数のタスクの優先順位をつける――こうした日常の知的作業はすべてワーキングメモリに依存している。
イェール大学のエイミー・アーンステン博士らの研究では、ストレスホルモンの過剰分泌が前頭前野のワーキングメモリ回路を直接的に阻害することが示されている。
ストレスが高まると、脳はまるでRAM容量が半分になったパソコンのようになる。アプリを開きすぎてフリーズするように、情報を保持しきれずに思考が止まるのだ。
第三に、意思決定疲労。
ストレスによる認知機能の低下は、1日の中でも時間とともに悪化していく。

