「利益に結びついている企業」は4割弱
――佐川さんが今年7月にまとめたレポートでは、企業の従業員1人当たりの月次AI支出額(中央値)が、1年間で4.4ドルから11.4ドルに増えたとあります。コストに見合って従業員の生産性は上がり、企業の利益に貢献しているのでしょうか。
【佐川】これまでは、企業がAIを導入するかどうかが注目点の一つでした。ただ、ある程度導入が進んだフェーズに移る中で、企業の関心は導入後の投資対効果がどれだけあるのかに移ってきているという指摘が増えています。
企業がAIを導入した後、従業員レベルでは生産性が向上した、業務効率が改善したという感覚を持っている人は非常に多いと言われています。私自身も普段の仕事でよく使いますが、スケジュール管理や情報収集など、かなり便利だと思うところもあります。
個人レベルでの生産性向上はいろいろ見られている一方で、企業への調査を見ると、AIの導入が利益に多少なりとも結びついているかという質問に対し、今年の調査で「結びついている」と答えたのは4割弱でした。半分に届いていません。
昨年も同じ調査が行われていますが、今年の方がAIの導入率自体は上昇しているのに、AIが利益に多少なりとも結びついているという見方は横ばいで、同じく4割弱です。あまり変わっていないという印象を受けています。
もう一つ言えるのは、AIによるコスト負担が非常に大きいということです。今年の春頃にも報道されましたが、コストが拡大する中で、AIの利用を一部制限する企業も出てきています。AIのコストが増える中で、投資対効果を見極める姿勢が強まってきている印象です。
中国から始まった価格競争の波
――使う側のコストでは、価格競争も話題です。中国勢が猛烈な勢いでキャッチアップし、中国を中心に値下げ競争が起きて、アメリカのモデルより安く使えると言われます。高価でも性能の高いAIを出すことを競うフェーズから、価格競争へと軸が移る可能性はあるのでしょうか。
【佐川】中国では、例えば今年もDeepSeekが大きく価格を引き下げ、それに追随して他の会社も価格を引き下げる動きが起きました。中国とアメリカで見た場合に、モデルの性能差はほぼなくなってきたという分析もかなり出てきています。
性能差が縮小している状況では、使う側からすると価格や費用対効果がより重視され、中国での価格競争がアメリカにも波及してくる動きが見られます。
実際にアメリカでも、OpenAIやAnthropicといった企業が低価格のモデルを拡充したり、より安いプランの展開を進めたりする動きが出ています。性能だけでなく、価格面でも競争が生じている状況になっています。

