ロシアによるウクライナ侵攻やイラン情勢、米中対立などの地政学リスクが高まる中、企業はどのような変化を迫られるのか。丸紅経済研究所上席主任研究員の玉置浩平さんは「自社の事業と国益との関係を考えざるを得なくなるだろう。良き企業市民から良き企業国民になれるのか、という問いに迫られる」という――。

※本稿は、ポッドキャストで公開中の「【THE INSIGHT~分析 世界の力学~】#07世界の新たな潮流、経済ナショナリズム。企業に「愛国心」が求められる時代がやってきた――?」の一部を書き起こし、再編集したものです。

玉置浩平(たまおき・こうへい)
丸紅経済研究所 上席主任研究員
外務省入省後、朝鮮半島、宇宙・海洋安全保障などに関する外交政策の企画・立案に従事。2021年から丸紅経済研究所にて国際政治経済に関する調査分析を担当。企業の地政学リスク管理の在り方についても研究を行う。東京大学法学部卒業、タフツ大学フレッチャースクールLL.M.修了(国際法学修士)。
世界地図を見ている人
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自由主義と経済ナショナリズムの違い

――市場経済により重きを置く自由主義から一転して、近年は半導体やレアアースといった「重要分野」をめぐり国家が介入を辞さない姿勢が主流になっています。このように、今、世界的なトレンドになっている「経済ナショナリズム」について、改めてどのような考え方か教えてください。

【玉置】一言で表現すれば、国益を実現するために経済に国家が積極的に介入することを肯定する考え方だと言えます。

資本主義経済において国家と市場がどう関係するかについては、経済ナショナリズムと自由主義という大きな二つの立場が、歴史的に併存してきました。

自由主義は自由な市場を重視し、国家による干渉は少ない方がよいという考え方です。必ずしも自由放任でよいというわけではありませんが、基本的には市場メカニズムを尊重し、国家介入は非効率だと考えます。国と国との関係についても、貿易や投資を通じて互いに利益を得られるというポジティブな見方がベースにあります。

一方、経済ナショナリズムは、国家間の競争や対立といった環境の中で生き残るには経済力が必要であり、それを拡大するうえで、市場に委ねていては最適な資源配分が実現できない、という考え方です。

振り子のように揺れてきた二つの思想

歴史を振り返ると、1970年代から80年代ごろにかけて、アメリカやイギリスを中心に自由主義が優勢に転じました。「新自由主義」と表現される考え方が、グローバル化とともに世界に拡大していったと言えます。

ただ、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)や新興国の台頭といった変化の中で、経済ナショナリズムに対する支持が徐々に拡大し、2020年代に入ると主要国では主流化しつつあると見ています。

この背景には地政学的な対立の激化という構造的な要因があります。一時的なサイクルではなく、持続的なトレンドと見るべきでしょう。

ナショナリズムという言葉には非合理的といったネガティブなイメージがあると思いますが、経済ナショナリズムと自由主義のどちらかが正しくて、どちらかが間違っているという問題ではありません。どちらもある側面では一理ある考え方です。だからこそ、歴史の中で振り子のように影響力を拡大したり縮小したりしてきたのだと思います。