パスタには箸? それともフォーク?
「たとえば、おでんです」
ラメスは言った。
「お客様が指をさしてくれれば分かります。でも、がんも、つくね、さつま揚げと言われても、どれがどれか分かりません」
日本人なら、子どもの頃から食卓や店先で目にしてきたものです。しかし、なじみのない環境で育った人にとっては、名前も見た目も、一つずつ結びつけて覚える必要があります。
さらに迷うのが、食べ物に添える箸やスプーン、フォークです。
パスタを箸で食べる人もいれば、フォークが当然だと思う人もいます。料理によっても、お客様の好みによっても、求められるものは変わります。
レジ操作には手順があります。しかし、お客様が口にしない期待まで読み取るのは、別の難しさです。機械を扱う力があっても、日本で長年暮らしてきた人の生活習慣まで、最初から分かるわけではありません。
コンビニ本部も、外国人スタッフ向けの研修を行ってきました。しかし、ラメス君の雇い主である、コンビニオーナーの坂本哲郎さんは、本書の中で、当時の研修について厳しい意見を述べています。
本当に外国人店員に教えるべきこと
「実務研修が長い、ということですか」
「そうです。あんなものは、覚える子はすぐ覚えますよ。彼らは頭がいい。日本に留学してくる子たちですからね」
これは、日々外国人スタッフを教えていた坂本さんの評価です。当時の研修は、レジ機器の操作、宅配便、公共料金、ネット通販商品の店舗受け取りなど、実務に多くの時間を割いていました。作業を正確に覚えれば、接客にも余裕が生まれる。本部には、そうした考えがありました。
坂本さんが現場で感じていた課題は、別のところにありました。
外国人スタッフが増え、接客クレームが寄せられる。その時、原因を本人の日本語力や能力だけに求めてしまえば、教え方の問題は見えなくなります。
何をすれば、お客様に安心してもらえるのか。反対に、どんな対応が失礼だと受け取られるのか。日本人の間では説明せずに済ませてきたことを、言葉にして伝える必要があります。
ただし、日本人の価値観をどこまで求めてよいのか。本部の担当者がその疑問を口にすると、坂本さんはこう答えます。

