野党議員から上司に「特ダネ」情報
記者が喉から手が出るほど欲しいのが「特ダネ」だ。取材対象である国会議員もそれをよく知っている。こうした記者の心理をくすぐる野党議員が、ときに不正確な情報を報じさせようとすることもある。
2017年の秋、一本の電話が私にかかってきた。時間は夜8時頃で、野党クラブの上司からだった。とある野党議員が「TBSだけに特ダネをリークするから、今すぐに事務所に来い」と言っているという。上司は別件でどうしても行けないので、代わりに私に行って欲しいという依頼だった。すぐにタクシーを飛ばして議員会館の部屋に向かった。
ドアをノックすると、出てきた議員は顔をしかめた。「お前は誰だ」と言わんばかりだった。部屋には通してもらえたが、上司の代打で来たのだと説明すると議員は机をバンと叩いた。「俺が呼んだのはお前の上司だ。お前みたいな小間使いじゃない」と。「同じTBS政治部の人間です。責任を持って情報を扱います」私は毅然と対応した。
「絶対に放送すると約束しろ」
議員は不満そうだったが「まあいい」と言ってA4サイズの資料を手渡してきた。私が受け取ろうとすると、議員は突然資料を引っ込めて言った。
「資料を渡す前に、今晩のnews23でこの資料の中身を絶対に放送すると約束しろ。そうすれば特ダネをくれてやる」
議員は血走った目ですごんできた。
今思えば、これは特ダネをチラつかせて自分に都合の良い情報を報じさせようとする駆け引きだった。特ダネが欲しい記者は、何としても議員の資料を手にしたい。そんな記者心理をくすぐって、真偽不明の情報を放送する確約を得ようとしていたのだ。スクープであれば、放送や紙面での扱いは大きくなる。議員にとって好都合なのだ。
「放送の約束はできません」と私は言った。番組にはそれぞれ独自の「編集権」がある。政治部の私が放送内容を約束したり、指示したりすることはできない。
その旨を議員に説明したが納得がいっていない様子だった。狭い議員会館の応接室で10分ほど詰問されたが、私は折れなかった。相手が誰であれ放送内容を事前に漏らしたり、約束したりしてはいけない。

