中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路」の欧州での看板事業の一つ、東欧ハンガリーと隣国セルビアとを結ぶ鉄道事業が難航している。事業の採算や透明性が置き去りのまま進められた結果、投資回収までに「2400年」かかるとの試算もある。海外メディアが遅々として進まない「一帯一路」の迷走ぶりを報じている――。
2024年5月9日、ハンガリーのブダペストにある首相官邸(旧カルメル会修道院)で、ヴィクトル・オルバン首相(右)と習近平国家主席(左)が会談後、共同記者会見を行っている。
写真=EPA/時事通信フォト
2024年5月9日、ハンガリーのブダペストにある首相官邸(旧カルメル会修道院)で、ヴィクトル・オルバン首相(右)と習近平国家主席(左)が会談後、共同記者会見を行っている。

17人を巻き込んだ駅舎崩落事故

バルカン半島の付け根に位置する、東欧・セルビア。第2の都市ノヴィサドは、ドナウ川のほとりに広がる、絵のように美しい街として知られる。近年は建設ブームに沸いており、新しい建物や集合住宅が次々と建てられ、街の姿は大きく変わった。

活気あるこの街で痛ましい事故が起きたのは、2024年11月1日の金曜日のことだった。いつになく暖かかったこの日、週末を控え、ノヴィサド駅は人でにぎわっていた。そして午前11時52分、崩落事故が起きた。駅舎入口にいた17人の頭上に、庇ひさしが崩れ落ちたのだ。生き残ったのは、医学部の学生ただ1人。16人が死亡する惨事となった。

庇が崩れ落ちたノヴィサド駅(写真=Wikimedia Commons)

ノヴィサド駅は、隣国ハンガリーの首都ブダペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ鉄道の途中駅である。1960年代に建てられた駅舎は、昔から出会いと別れの場所だった。2021年からは改修工事が進められ、公式に開業が宣言された後も、外観は工事中のままだった。

駅舎の改修は、ノヴィサドからハンガリー国境までの区間を近代化する事業の一環だった。そしてこの鉄道全体が、中国の習近平国家主席が提唱した広域経済圏構想「一帯一路」の重要な事業に位置づけられている。調査報道ネットワークのバルカン・インサイトによると、この事業を請け負ったのは中国の企業連合だ。崩落をめぐっては元建設相ら13人が起訴され、2026年7月には控訴裁判所が全員について審理を進めることを認めた。だが、刑事責任の所在はまだ司法の場で決着していない。

首都間の移動を8時間→3時間台に

鉄道はハンガリーのオルバーン・ヴィクトル前首相が対中外交の中核に据えた事業でもあった。オルバーン政権は2026年4月の議会選挙を前に開業を急ぐとみられていたが、中国の請負業者が納入したハンガリー区間の列車制御システムが欧州規格に基づく承認を得られず、開業は間に合わなかった。

オルバーン氏は選挙に敗れ、16年続いた政権は幕を下ろすことになった。ハンガリー区間の旅客営業は、国内列車が10月後半、ベオグラードへの国際列車は12月にようやく始まる見通しだ。

国境を越えたハンガリー側の区間も、中国の融資を受け、中国企業が施工に加わっている。ノヴィサド駅の崩落を受けて、ハンガリーの建設交通相はドイツの検査機関による独立した審査を指示し、路線の安全性に厳しい目が向けられることとなった。

ブダペストとベオグラードを結ぶ新しい鉄道は、両首都の間の旅を一変させるはずだった。計画には、二つの思惑が絡んでいた。オルバーン氏の思惑と、中国の思惑だ。

改修前の在来線では、列車が時速40キロを出しただけで車体が小刻みに揺れ出した。ブダペストからベオグラードまでは8時間かかり、150年前に線路が敷かれたころと変わらなかった。バルカン・インサイトは2020年、この旅を「時間をさかのぼるよう」だと評した。

新線は、ブダペストを起点に国境駅ケレビアからセルビアに入り、ノヴィサドを経てベオグラードに至る。運行計画では、最速の列車で両首都を3時間11〜23分で結ぶ見込みだ。