事業費の85%は条件非公開の中国融資
オルバーン氏の狙いを辿れば、同氏が2010年に政権へ返り咲いた後に掲げた外交方針「東方開放」に行き着く。我々は西側の旗の下で航海しているが、世界経済には東から風が吹いている――。オルバーン氏はそう語り、この方針を打ち出した。
ハンガリーの研究者エステルハイ・ヴィクトル氏らが米外交専門誌のディプロマットへの寄稿で指摘したように、この鉄道は一帯一路におけるハンガリーの看板事業と位置づけられた。中国と欧州を結ぶ玄関口がブダペストであることを示す、象徴的な事業になるはずだった。
中国側にも思惑があった。ブダペストの研究機関、経済・地域研究センターの中国専門家、スノマール・アーグネシュ氏は2020年、バルカン・インサイトに、「中国の最大の動機は、質の高いインフラ投資ができる国として欧州に存在感を示すこと」と語っている。その後、ハンガリーは中国から「全天候型戦略パートナー」に指定され、2024年春には習近平国家主席が同国を訪れた。
こうした思惑が絡んだ計画は、採算も透明性も置き去りにして突き進んだ。
ハンガリー政府が鉄道建設を決めたのは2014年。建設契約が結ばれたのは2019年だった。施工を担うのは、RMインターナショナルと中国企業2社でつくる企業連合だ。RMは、オルバーン氏と親しい実業家メーサーロシュ・レーリンツ氏の会社である。
総事業費は膨らむ一方だった。当初の額は4520億フォリント(約2200億円)。米議会の予算で運営される自由ヨーロッパ放送のハンガリー語サービスが伝えた数字だ。2021年の時点では7500億フォリント(約3650億円)に達し、その85%を、条件が公表されていない中国からの融資で賄うという。
投資回収に「2400年」の試算
専門家を驚かせたのは、ルートの選定だった。線路は人家のまばらな地域を走り、途中で大都市を一つも通らない。少し迂回させれば、国内第3の都市セゲドも経由できたが、ルートはそこからも外れている。経済誌フィジェルーが取材した鉄道専門家の試算では、貨物列車の運行で入る線路使用料で投資を回収するには2400年かかる。事業を所管するハンガリー外務省に至っては、採算について「数値化しにくい」として、計算しようともしなかった。
実現可能性調査は機密扱いにされた。2020年には議会が、事業に関するあらゆる情報を10年間非公開とする法律まで可決している。
ハンガリー側の事業が機密扱いのまま進むなか、セルビア側ではひと足先に、ベオグラード―ノヴィサド間の74.9キロ区間が開業した。開業式典の舞台は、のちに庇が崩れ落ちることになる、あのノヴィサド駅だった。

