「外の目」による大学改革
SNS等でも「これが会社だったら、社員の人気投票で社長を決めるなんてことはないはずだ」という意見は見られ、一定の説得力はある。
「組織のトップは『人気投票』で選ぶようなものではない」「候補者が経営者として適切なのか、票を入れる側も必ずしも分かってはいないだろう」等を理由に、「組織のトップを投票で選ぶのは、それはそれでまずい」という認識も、社会には既に浸透しているはずだ。
上場企業のガバナンスでも、内部の経営陣だけで組織を経営するのではなく、社外取締役など「外の目」を入れる仕組みが定着している。組織内部の多数派の意思だけでなく、外部の視点を意思決定に反映すること自体は、現代の組織統治ではむしろ標準的な考え方なのだ。
総長選では否定されていたがジェンダー(の比率)の問題にしても、社外取締役や管理職の女性比率を高めることは、もはや国際的にもガバナンス上の規範となっている。
そう考えると、東大の選考会議が意向投票の順位と異なる結論を出したことだけを取り上げて「民主主義に反する」と断じることはできないだろう。
さてここまでの話は、要は「総長選で投票2位の人物が選ばれるのは、別にルール上は問題ない」とまとめられる。立法時点の意図にも沿っており、少なくとも意向投票2位の人物を選んだことはルール違反ではない。コンプライアンス上、特に問題ないはずなのだ。
ダブルスコアの差は想定外だったか
しかし繰り返すように、だからこそ、それでも異論が噴出しているという点にこそ問題があるといえる。制度上の正しさと、人々がもつ納得感は別なのだ。ここまで述べたようなルールを、中の人や制度を決めた人すら把握していないということもあり得る。
実際に、2019年時点では内部の投票で決めたらダメだ、と言っていたはずの甘利氏は、今回の結果を受けてSNSに次のように投稿している(注8)。
「東大総長選は教員等による投票で1107票で過半を制した染谷隆夫副学長を2位で553票の藤垣裕子副学長が学長選考・観察会議の判断で覆して総長に選出しました。
会議は大学経営に関与したことがない8名で構成されているとのこと。ダブルスコアで勝った候補を外すって何のための投票なんだろう? 東大の闇は益々深まる?」
記憶喪失になったんだろうか……という疑問はさておき、好意的に解釈すると、「たしかに改革のためには外の目を入れろ、投票順に選べばいいわけではない、とは言ったものの、さすがにダブルスコアの差は埋められないのでは」という意見だとは解釈できる。
注8:甘利明氏X 2026年9月29日のポスト

