女優としての評価を固めた「娼婦」役
当の本人は、解放感もあって気ままなパリ生活を楽しんでいた。世界的に有名な映画監督フランソワ・トリュフォーや作家のフランソワーズ・サガンと知り合い、トリュフォーの家に遊びに行ったりもしたようだ。
とはいえ、貯金はあっても無職である。パリを満喫し、高価なブランド服を次々あつらえたりした結果、持ち金は底をついた。
そこに劇団四季の浅利慶太から連絡があり、『オンディーヌ』という舞台への出演依頼が舞い込む。
本人はお金もないので軽い気持ちで「あと1本だけ」と思ったようだが、これが予想を超える大成功を収める。ただ本格的な演技は初めてで、長ゼリフでの息継ぎの仕方などには苦労もした。しかし、そこで初めて女優という仕事のやりがいに目覚めた加賀は、真剣に女優業に打ち込むようになった。
演技派として広く認められたのは、30代で出演した『泥の河』(1981年公開)である。加賀は川辺に繋がれた小舟に住み、子どもを養うために娼婦として生きる女性を演じ、キネマ旬報助演女優賞を受賞するなど高い評価を得た。
「そのスカート、もうちょっと上げてごらん」
以降はご存じの通りだ。数々の映画やドラマに出演し、『花より男子』(TBSテレビ系、2007年放送)では道明寺司(松本潤)の母親・楓役で若者にも知られるようになった。また近年では『しあわせは食べて寝て待て』(NHK、2025年)や今回の『ブラッサム』など、年配女性の役柄で円熟味を増した演技を見せている。
その間、私生活でも度々話題を振りまいてきた。
本人も折にふれて語っている作家・川端康成との出会いは、まだ20代初めのことだ。
川端原作の映画『美しさと哀しみと』で主演を務めることになった加賀まりこは、川端の自宅で本人に引き合わされた。その後、加賀を気に入った川端は投宿先での朝食に度々誘うようになる。
だがその朝食は、とても奇妙なものだった。「おはようございます」と挨拶を交わした後は、ほとんど会話もない。それで川端はどうしているかと言うと、自分は食事をせず、食べている加賀を正座したままただ眺めていたという。
2度目の朝食の際、加賀は膝丈の巻きスカートを履いていた。そのため座ったとき、少し裾がめくれてしまった。すると川端は、「そのスカート、もうちょっと上げてごらん」と静かに言った。


