移動中にメールを片づけている人ほど、大きな判断を誤る。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「トップエリートは移動時間に仕事をしない。彼らは数千万円を払って機体を借り、食事も酒も通信もすべて断つ。彼らが恐れているのは、稼ぎ損ねることではない。疲れた脳が下す判断によって、巨万の富を失うリスクを知っているのだ」という――。

真の富裕層はファーストクラスに目もくれない

富裕層はなぜ、使っても使っても資産が増え続けるのか。この問いに対する答えは、彼らの「旅(移動)」という特異な消費行動に隠されている。

一般のビジネスパーソンにとって、移動とは「A地点からB地点へ行くための手段」であり、同時に日々の労働の疲れを癒やす「休息」の場である。少しでも豪華なホテルに泊まり、飛行機ではファーストクラスの座席に座り、高級ラウンジでシャンパンのグラスを傾けることに至上の喜びを見出す。SNSで自らのステータスを誇示するために、きらびやかな非日常の写真をアップする人々も少なくない。

しかし、世界のビジネスシーンを牽引する本物の超富裕層たちにとって、ファーストクラスの座席など単なる「公共の移動手段」にすぎない。あそこでCAのサービスを受けて喜んでいる時点で、すでに彼らの思考回路からは完全に周回遅れなのだ。

では、トップエリートたちは移動の何に対して大金を払っているのか。それは「強制的なノイズの遮断」と「誰にもアクセスされない完全な密室空間」である。彼らは数千万円という莫大なコストを投じてプライベートジェットをチャーターし、あえて機内での豪華なサービスをすべて拒絶する。一見すると無意味にも思えるこの異常な消費行動にこそ、彼らが激動のビジネス環境において巨万の富を生み出し、桁外れの決断を下し続けるための「最強の自己投資」の秘密が隠されている。

4000万円かけて「空飛ぶ密室」を確保する

私がこれまで接してきた外資系企業のトップや、莫大な資産を動かす投資家たちの移動手段は、極めて特異である。彼らは海外への長距離移動において、既存の航空会社のファーストクラスを予約することはめったにない。

代わりに選ぶのは、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ傘下の「NetJets(ネットジェッツ)」や、グローバルに展開する「VistaJet(ビスタジェット)」といった、会員制プライベートジェットのチャーターである。

たとえば、東京からニューヨークまで、航続距離の長い超大型機「ガルフストリーム G650ER」をチャーターした場合、その費用は片道でおよそ4000万~4500万円、為替や運航条件によっては5000万円を超えることもある。家が一軒買えるほどの金額を、彼らはたった十数時間の移動空間にためらいなく支払うのだ。

一般の感覚であれば、「それだけの大金を払うのだから、さぞかし機内では取り巻きを引き連れて豪華なパーティーを開き、最高級のキャビアやヴィンテージワインをパートナーと楽しんでいるのだろう」と想像するかもしれない。しかし、実態はまったくの正反対である。

機体を1人で貸し切り、CAに指示したことは

あるクライアントの経営者は、海外での重要なM&A(企業の合併・買収)交渉に向かう際、十数人乗りの巨大な機体に「たった一人」で搭乗した。彼はターミナルで待つこともなく、黒塗りのハイヤーから直接機体のタラップへと上がる。この時点で、ファーストクラスとは待遇が別次元である。

そして、キャビンに入るなり専属のフライトアテンダントに対してこう頼んだという。

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