「1時間待つ」のは壮大な損失である
空港という場所は、超一流にとって「時間の墓場」である。チェックインの列、保安検査の脱靴、搭乗ゲートまでの徒歩10分。機内にたどり着いた頃には、出発1時間前に家を出た疲労感がじんわりと滲んでいる。着陸後も、その逆の手順を繰り返す。出張の「仕事」以外の移動時間を合算すると、1回の遠征でゆうに半日が消える。
では、まったく別の現実を想像してほしい。成田空港に到着する。専用ターミナルから手荷物検査を通るが、待ち時間はなし。自家用車で機体の横まで乗りつけ、タラップで搭乗する。ここまでの所要時間は、たった10分だ。
この体験を許されている人たちが、日本に17人(社)だけ存在する。彼らの正体はプライベートジェットのオーナー、それも「ホンダジェット」の所有者たちだ。
IT、不動産、医療機関と多岐にわたる
ホンダが製造する小型ビジネス機「ホンダジェット」の型式記号は「HA-420」という。航空機にはすべて機体番号の記載が義務付けられており、国土交通省のデータベース(JA Search)で型式「HA-420」と検索すると、2025年2月時点で日本国内の登録数は17件だ。
日本の人口は約1億2000万人。その中でホンダジェットを持つ者はわずか17。東京ドームを満員にしても、スタンドのどこを探しても一人も見当たらない割合だ。「プレミアム感」などという言葉では軽すぎる。これはもはや「別の経済圏」の話である。
では、その17機の顔ぶれはどうか。データベースを精査すると、インターネット関連から医療、不動産、ホテルまで業種は驚くほど多岐にわたる。GMO、青山メインランド、徳洲会……。「お金持ちの道楽」という先入観は、この名簿の前でたちまち崩れる。
かつて丸紅など商社が独占していたプライベートジェットの国内販売だが、今ではホンダの直販体制に切り替わった。中間業者を排してメーカー自身がディーリングを担うことで、品質管理と利幅の両立を図る戦略だ。
10億円の機体が「節税」になる理由
ホンダジェット(エリートシリーズ)の定員は7名だが、実際の運用では4名が標準となる。機内は4名掛けの向かい合わせシートを中心とした設計で、プライベートな空間として使うにはこれがちょうど良い。
航続距離は余裕を見て片道約1000km。東京から台湾(台北)が約2100km、ソウルが約1280km、上海が約1750km。つまり現行モデルで給油なしに飛べる快適な範囲は「日本本土の大半、または近隣アジア圏の一部」ということになる。北海道から沖縄まで無給油では飛べず、「日本は狭い」と言われながらも、ホンダジェットにとって縦断には途中給油(テクニカルランディング)が必要な広さなのだ。
フライトコストは成田―鹿児島の片道で約660万円程度(片道4名乗車で1名あたり約165万円)。これにパイロット費用、燃料、空港使用料などが加わる。
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