もっと柔らかくも、硬くもできる

そのため、誠に恐縮ではございますが、本件につきましては2480万円にて買付申込みをさせていただきたく存じます。

なお、2480万円であれば、住宅ローン審査も無理なく進めることができ、当方としては速やかに契約手続きへ進む用意がございます。

購入の意思自体は非常に強い一方で、資金計画上、この条件が成立しない場合には本件購入は見送らざるを得ないというのが率直な結論です。

売主様におかれましてはご心証を害されることのないよう、あくまで物件を高く評価したうえで、現況と必要修繕費を踏まえた真摯なお申し出であることをご理解いただけましたら幸いです。

お手数をおかけいたしますが、何卒ご調整のほどよろしくお願い申し上げます。

敬具

[お名前]

必要でしたら、もう一段だけ『やわらかめ』にした版と、逆に『より通るようにロジカルで硬め』にした版も作れます。〉

ちなみにチャッピーは、この後に涼しい顔をして「必要ならもっと柔らかくも、硬くもできますよ」と提案までしてきている。こいつは本当に有能な参謀だ。

送信ボタンの前で震える指と悪魔の囁き

「本当にこれを送るのか? 300万円も値引きしろなんて、怒られて破談になるんじゃないか?」

画面の前で、指が止まる。

「80万円引きで手を打った方が安全じゃないか?」

悪魔の囁きが聞こえる。私はリーマンショック後の不況期を経験した世代だ。美味しい話には裏がある、調子に乗れば手痛いしっぺ返しを食らう――そんな感覚が、生存本能のように染みついている。石橋を叩いても渡らないほどの慎重さは、あの時代を生き抜くための術だったのかもしれない。また、強気な値引き交渉をすること自体に対する引け目もあった。

そのとき、チャッピーの画面に表示されていたアドバイスが目に入った。

〈横山さん、恐れないでください。不動産取引はビジネスです。相手が断れば、縁がなかっただけのこと。しかし、このロジックに反論するのは不可能です。GOです。〉

私は息を止め、目をつぶって「送信」ボタンをクリックした。パタン、とノートパソコンを閉じる。心臓の音が、深夜のオフィスに響いていた。