年収700万円でも「楽ではなかった」

冒頭の相談者も、親から土地を譲り受けたことが、高額な注文住宅を建てる心理的なハードルを下げた面はあったのだろう。だが「土地を買わなくていい」ことと、「少ない負担で家を持てる」ことは、必ずしもイコールではない。ちなみに、親から土地そのものを贈与された場合には、原則として贈与税や不動産取得税の課税対象となる。ここでは、こうした税負担とは別に、住宅ローンと将来の売却リスクを考えていく。

この男性のケースに近い条件でコストまわりを改めて整理してみよう。

建築費4500万円、自己資金500万円、住宅ローン4000万円。35年の元利均等返済で、金利を年1.5%、ボーナス返済なしとすると、毎月の返済額は約12万2000円になる。男性の直近の年収は賞与込みで約700万円、年間の手取りは約580万円だった。年間返済額は約146万円なので、手取り年収に対する住宅ローン返済額の割合は約25%になる。

数字だけを見ると、特に無理な返済計画とはいえない。しかし、この家庭では事情が違った。男性の毎月の手取り給与は38万円前後だった。勤務先は業績によって賞与が変動しやすく、ボーナス払いを組むことには不安があったため、住宅ローンは毎月払いだけにしていた。すると毎月12万2000円の住宅ローンは、月々の手取りの約32%を占める。38万円から住宅ローンを差し引くと残るのは約25万8000円。ここから5人家族の食費、光熱費、通信費、保険料、車関連費などを支払う。さらに子どもは3人。一番上でもまだ小学1年生で、教育費が本格的に膨らむのはこれからだった。

住宅ローンの審査に通ったことと、その後何十年も余裕を持って返済できることは同じではない。実際、家を建てて数年後、勤務先の業績が悪化し、男性の収入は減った。そこで初めて「このまま返すより、売るという選択肢もあるのではないか」と考えるようになったのだ。

家の模型と積み上げたコインを前に、頭を抱える男性
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「苦しくなれば売ればいい」は本当に可能か

では、4000万円を借りて建てた家は、返済が苦しくなれば売却すればよいのだろうか。

先ほどと同じく4000万円を金利1.5%、35年元利均等返済で借り、金利が変わらなかったと仮定すると、3年後の住宅ローン残高は約3733万円になる。3年間、毎月12万円以上を返済していても、まだ3700万円以上が残っている。返済開始から10年が経過してもローン残高は約3062万円、15年後でも約2538万円だ。

住宅を通常の方法で売却するには、原則として売却時に住宅ローンを完済し、金融機関が設定した抵当権を抹消する必要がある。そのため売却時には、ローンを完済できる金額で買ってくれる人が見つかるかが重要になってくる。売却価格から仲介手数料などを差し引いた金額でローン残高を完済できなければ、不足分は原則として自己資金などから補わなければならない。

ここで親からもらった土地という問題が浮かび上がる。自分で土地を買うなら、駅からの距離、周辺の商業施設、道路との接し方、土地の形、高低差、上下水道などのインフラ、法令上の制約などを、複数の候補地と比較するだろう。ところが親の土地は、自分で選んだ土地ではない。「タダでもらえる」という大きなメリットがあるため、本来なら土地を購入するときに確認するはずの条件を、十分に意識しないまま家を建ててしまうケースも多いだろう。

冒頭の男性が家を建てたのも郊外だった。「売ったほうがいいのか」と男性は口にしたが、筆者には売却によって簡単に問題を解決できるとは思えなかった。