※記事中の相談事例はプライバシー保護のため、個人が特定されないよう一部を変更しています。
親からもらった土地に家を建てたものの…
「この家、売ったほうがいいんでしょうか」
筆者がファイナンシャルプランナーとして住宅資金の相談を受けていたとき、会社員男性(30代)からこんな言葉が漏れた。男性は妻と3人の子どもの5人家族。一番上の子どもは小学1年生、一番下はまだ赤ちゃんだった。親から郊外の土地を贈与してもらい、そこに4500万円ほどの注文住宅を建てた。自己資金を入れ、住宅ローンの借入額は約4000万円。年収は約700万円あり、ローン審査も問題なく通った。
親から土地をもらえるのだから土地代はいらない。一生に一度のマイホームだし、建物にはお金をかけたい。家を建てるときには、先のことをそこまで深く考えていなかったという。ところが暮らし始めてみると、思った以上に家計に余裕がない。さらに約3年後、勤務先の業績が悪化して収入も減った。
「だったら、いっそ売るという方法もあるのではないか」
実際のところ、男性はそこまで深刻に思い詰めていたわけではない。あくまで選択肢のひとつとして口にしただけだったのだろう。しかし筆者には、このひと言が妙に引っかかった。この家は、売ろうと思ったとき、本当に売れるのだろうか……。
住宅ローンは何十年にもわたって返済する必要がある。一方、仕事や収入、家族の状況は、その間ずっと同じとは限らない。住宅価格が上昇し、借入額も大きくなっている昨今、親の土地に高額な注文住宅を建て、あとになって「こんなはずではなかった」となる人が今後増える可能性があるのではないか。
土地代は0円でも、いまは建物自体が高騰
なぜそう考えるのか、数字を挙げながら説明していこう。
親から土地をもらえることには、大きな経済的メリットがある。「土地代がかからない。その分、建物にお金をかけられる」。そう考えるのも道理だろう。都市部を中心に地価が上昇するなか、数百万円から数千万円の土地代が浮くこともある。
ところが、いまは建物そのものが高い。住宅金融支援機構が2026年7月に公表した「2025年度フラット35利用者調査」によると、土地をすでに所有している人などが利用する「注文住宅」の平均建設費は4259万8000円だった。前年の3932万1000円から8.3%、金額にして約328万円増えている。
平均住宅面積は118.4平方メートル、約35.8坪。単純計算すると1坪あたり約119万円になる。フラット35利用者に限った数字ではあるものの、土地代がかからなくても、建物だけで4000万円を超える時代になっている。しかも、注文住宅では建物本体以外の費用も発生する。土地の状態によっては、地盤改良や造成、給排水工事、古家の解体などが必要になる。
親の土地に家を建てる場合、もうひとつ注意したいのが「浮いた土地代を建物に回してしまう」ことだ。たとえば、本来なら土地と建物を合わせて4000万円程度を予算としていた世帯でも、土地を無償で取得できれば、「せっかくだから建物はもう少し豪華にしよう」と考えやすい。床面積を広げたり、設備のグレードを上げたりすれば、建築費は簡単に膨らむ。
住宅会社から見ても、土地代の負担がない分、建物に予算を振り向けやすい顧客になる。しかし、土地代がゼロになったからといって、毎月の返済に使える家計の余力まで増えるわけではない。むしろ、浮いたはずの土地代を建築費に置き換えてしまえば、結果として大きな住宅ローンを抱えることになる。

