国民負担は年間4000億円に上る
さらに、減反政策をやめて、コメの生産量を増やし、国内消費量を上回った分を輸出すれば、財政負担のない無償の備蓄となる(食料危機時には輸出に回していたコメを食べる)。こうした生産力の維持を重視する考え方は、アメリカ、EUなどが行っている食料安全保障政策にも共通する。
だが日本では、政府備蓄米を倉庫で保管し、不足時の放出がなければ5年程度で飼料用等として売却している。この仕組みに伴う売買差損と保管費は、筆者の試算では年間約500億円(※2)に上る。
また、日本がウルグアイ・ラウンド合意に基づいて受け入れているミニマムアクセス米などの運用では、売買差損や保管費等により、2020~2024年度に年平均約500億円(※3)の損失が生じている。これらの予算額や試算を合わせると、年間4000億円程度の財政負担となる。NHKの番組は、財政から不必要な支出をしていることを、完全にスルーしている。
※2 年間20万トンを買い入れ、5年間保管して順次売却する通常の備蓄運営を前提とした筆者の試算。買い入れ価格を玄米60㎏当たり1万5000円、売却価格を2000円とすると、年間の売買差損は約433億円。保管費を1万トン当たり年間1億円とすると、備蓄100万トンの年間保管費は100億円となり、合わせて年間約533億円の負担となる。
※3 農林水産省「米をめぐる状況について」(2026年3月)168ページ「MA米等の損益全体」による。2020~2024年度の損失額の平均は506.6億円。売買損益と保管料・運搬費等の管理経費を合算したもので、TPP11の豪州枠に係る損益を含む。MA米の援助輸出に係るODA負担分は含まない。
世界から周回遅れの日本の農業保護政策
本連載では何度も触れていることだが、農産物の場合には、価格が変動することで需要と供給は必ず一致する。
しかし、高市政権では、「需要に応じた生産」を目指すという。これはつまり、生産抑制を促してコメの供給量を絞り、米価を高く維持することで農家を保護しようとするものだ。
すると、ここで問題が起きる。コメ価格を高くすると、農家は儲かるので生産を増やす。一方で、消費者はコメが高いから、買い控えをしてパンやパスタなど、別のもので家計をやりくりするようになり、コメの消費量は減っていく。
高価格を維持しようとすれば、生産意欲が高まる一方で消費が減り、供給過剰を招く。そこで、過剰を避けるために、前もって、補助金を使って主食用米から他の作物や用途への転換を促し、供給を抑えてきた。これが日本の減反政策だった。
日本が続けてきた高価格支持政策は、消費者負担も財政負担も増やす政策だ。この教訓から、世界の農政も経済学者も農家への「直接支払い制度」に転換していることを、NHKは番組で触れるべきだった。アメリカは1960年代に、EUは1993年に転換した。日本が今転換しても周回遅れどころではない。
なぜ日本だけが直接支払いへの転換を拒むのか。直接支払いを「主業農家」に限定すれば、大多数の零細な兼業農家は対象外となる。それでは、彼らを多数の組合員として抱え、資材販売や金融事業で利益を上げているJA農協の組織基盤が揺らいでしまう。
集票をJA農協に依存する政治家も同調する。つまり、消費者と財政を犠牲にしてまで高米価を維持する今の農政は、農業を守るためではなく、「農協と政治家の既得権益」を守るためのものなのであると筆者は考える。

