硬すぎて1分間に0.5ミリしか進まない

超硬合金はその硬さゆえに、プレス機でもレーザーでも加工できない。福田刃物工業では、これまでも「ワイヤーカット」を使用していたため、包丁にもこの方法を採用した。ワイヤーカットとは、超硬合金の板を水の中に入れ、0.25ミリの超極細のワイヤーに電流を流して、熱で溶かしながら切断するという方法だ。1分間にわずか0.5ミリしか進まないという遅さで、形を切り出すのに約10時間かかる。

(写真左)ワイヤーカットで切り出されたあと。40枚を重ねて、一度にカットする(写真右)真鍮の極細ワイヤーに電流を加えてカットする
撮影=天白あきえ
(写真左)ワイヤーカットで切り出されたあと。40枚を重ねて、一度にカットする(写真右)真鍮の極細ワイヤーに電流を加えてカットする

形が切り出せたら、次は「刃付け」だ。これも超硬合金が硬すぎるため、ダイヤモンドを取り付けた特殊な研磨機を開発した。約30分かけて両面を研いでいく。

研磨している様子。超硬合金は磁性がなく、くっつかないため、独自の方法で固定して研磨していく
撮影=天白あきえ
研磨している様子。超硬合金は磁性がなく、くっつかないため、独自の方法で固定して研磨していく

最初から最後まで自分たちでつくる

さらに、包丁の柄の部分の木工加工も自分たちの手で行う。福田刃物工業は金属加工が専門なので、木を扱うのは初めてのことだった。

最初は柄の部分だけ外注することも考えた。しかし、あとで改良したいと思った時、外に頼むと融通がきかないリスクも考え、自分たちで行うことにした。初挑戦の素材で、難しくはなかったのだろうか。

「実を言うと3日でできました。僕らはもともと図面を書いて、その通りに機械を動かすということには慣れていたんですよ。当社は、設計やそれを実行するオペレーター、それぞれの能力が高いなと改めて思いましたね」

機械で柄の部分を加工する。専用機械、24時間稼働のためのロボットも新たに導入した
撮影=天白あきえ
機械で柄の部分を加工する。専用機械、24時間稼働のためのロボットも新たに導入した
柄の部分に使うのは、岐阜県産の天然木ヤマザクラ、ブナ、ミズナラの3種類
撮影=天白あきえ
柄の部分に使うのは、岐阜県産の天然木ヤマザクラ、ブナ、ミズナラの3種類

刃物の業界では、切断、熱処理、刃付けなどは分業制が一般的だ。しかし、福田刃物工業は受注生産を長年続けてきたため、「最初から最後までつくるのは当たり前」のことだった。これまでに培ったノウハウをすべて詰め込んだのがKISEKI:なのかもしれない。

この「すべて自分たちでやる」という姿勢は、のちに販売にも反映されることになる。