真っ直ぐ狂いなく紙幣を断裁する刃物

福田刃物工業はさまざまな素材を使って、年間1万点、累計9万点の工業用製品をつくっている。そのなかで、紙幣を切る機械に使用していた超硬合金に注目した。お札を切る時には特に切れ味が重要で、真っ直ぐ狂いなく断裁する必要がある。それを実現できるのが超硬合金だ。

しかし、超硬合金の難点は、硬すぎて加工が難しいことと価格が高いこと。この素材で家庭用の三徳包丁をつくると3万円を超えることは当初からわかっていた。一般家庭向けのステンレス製包丁に比べると、かなり高額になる。

そこで、恵介さんが参考にしたのはアウトドア製品のスノーピークだ。これまでキャンプをしていなかった層を新たに取り込んだのを見て、「新しいマーケットをつくり出そう」と考えた。

もともと受注生産で商品を製造していたため、「初めての商品をつくることは大得意」という自負もあった。

エンジニアのメンバー2人に相談すると、「誰もやっていないことのほうがおもしろい」と好意的な反応だった。3人で超硬合金の包丁に挑戦することを決めた瞬間だった。

2年で100枚以上の超硬合金が無駄に

普段、法人向けの大型刃物を機械で加工している福田刃物工業にとっては、創業初期にペティナイフを製造して以来の試み。約100年ぶりの一般向け商品の開発に当たり、まずは手作業から始めた。

全国から約20種類の包丁を取り寄せて、構造を解析。刃の長さや角度を測定し、どの数値が一番切れるのかを分析した。

そのデータを参照して、超硬合金で角度や形状を変えて試作していった。このテストに1年以上かかり、計2年におよぶ開発では100枚以上の超硬合金300万円以上を費やした。

ある日いつものように、にんじんを切ってテストした。すると、スッと抵抗なく刃物が入っていく。

その手の感覚に、思わず「なんじゃこりゃ」と声が漏れた。それまでに感じたことのなかった驚くほどの切れ味だった。

トマトも力を入れず、スッと切れる
写真提供=福田刃物工業
玉ねぎも力を入れず、スッと切れる

膨大なテストを経て、一番切れる長さや角度がわかった。「絶対にいいものができる」と確信した恵介さんは、機械を導入する決断をした。