〈大問題〉を心に問うことの効能とは何か

<大問題>と仕事の好循環
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<大問題>と仕事の好循環

第一。〈大問題〉を明確に設定することにより、今一途に取り組むその仕事に対して、あらためて「なぜ、その仕事が重要で、必要な仕事なのか」という意味とやり甲斐を示してくれる。一途に仕事をしていると、ふとその仕事の意義が見えなくなるときがあるものだ。そのときに〈大問題〉が役に立つ。

第二。取り組む仕事に対して、自身に距離感を与える。〈大問題〉があるおかげで、取り組むその仕事を、相対的・客観的に見ることができる。仕事との距離感さえあれば、今やっている仕事を離れて、別の仕事に移る契機も与えられる。先の阿部氏の例で言うと、阿部氏自身が心の中に定めた自身の〈大問題〉(「13~14世紀における人と人との関係の変貌を明らかにする」こと)は、ドイツの文書館で古文書を読む以外の研究調査を要請するかもしれない。そんなとき、一途に古文書を読むだけでは気がつかない、その〈大問題〉に迫るもう一つの道が見いだされる。逆に言えば、「何が解ったら解ったことになるのか」を心の中に定めておかないと、阿部氏がそうした経験を積まれたように、どこかで行き詰まったり、空回りしたまま仕事が続いたり、あげくに幻想の〈美学〉をつくりあげてしまうことになりかねない。

相対化することで、現場の仕事にのめり込んでしまう自分をコントロールでき、自分を見失わずにすむ。今の仕事の限界を知り、それを受け入れることもできる。そうした効能をあらためて示しておこう。

〈大問題〉を、心に問う効能

・視野狭窄に陥らない。
・しなやかになる。不利な条件に陥っても絶望せず、次の展開を図ることができる。
・つねに冷静になってもう一つの選択肢・代替案を探ることができる。
・効率よく仕事ができる。仕事に無限定にのめり込むことがない。
・気持ちに余裕ができて、人の批判や助言を聞く耳を持つことができる。
・別の世界がありうるということを理解しつつ、今の仕事に一途に進むことができる。

研究世界の話が中心だったが、政治やビジネスの世界にも通じそうだ。一途に仕事に取り組む。それはいい。しかし、「自分は何のために、この仕事をしているのか」と、〈大問題〉を心の中に保ちたい。そのために、「何が解ったら、解ったことになるのか」、つまり「私は自分の何を解決するために、この仕事に取り組んでいるのか」を自分に問いかけたい。〈大問題〉を心に問い、しっかり立てておくと、それと仕事の間の好循環を保つとともに、仕事の区切りを付けることができる。

(平良 徹=図版作成)