平均単価は3カ月で「約70%」上昇した
足元の実績も強い。7月31日の決算説明会資料によると、4~6月期のSSD・ストレージ売上は1兆1747億円で、その6割超をデータセンター・企業向けが占めた。同用途の出荷量と売上収益はいずれも過去最高だった。
全社の米ドルベース平均販売単価(ASP)は前四半期から約70%上昇し、記憶容量ベースの出荷量も1桁台前半の率で増えた。増収は値上がりだけでなく、数量の拡大も伴っている。現在の利益には、こうしたASPの急上昇に加え、円安も寄与している。
なぜ、AIの普及がキオクシアの収益機会を広げるのか。AIサービスの拡大に伴い、参照する文書や生成した画像・動画などを保存する需要が増えている。その保存先の一つがSSDだ。さらに、AIが答えを出す際の計算結果の一部をSSDに保存し、再利用する仕組みも開発されている。
大容量のハードディスク(HDD)の供給不足で、需要の一部がSSDへ移ったことも追い風だ。こうしたSSD需要の増加は、中核部品であるNANDの需要も押し上げる。NANDの需要が供給を上回れば、価格が上がりやすくなる。
もちろん、競合の増産などで価格が下がる局面はある。それでも、AIの利用拡大そのものが保存需要を増やし、NAND市場の底上げにつながる構造がある。キオクシア自身も、AI推論需要によって利益水準が底上げされ、市況サイクルによる業績変動が小さくなるとの見方を示している。
前払いの提案、数年先のLTA協議、過去最高の出荷量、ASPの急上昇を合わせると、一部の大手顧客が供給確保を急いでいることがうかがえる。
売上の5分の1は「Apple向け」だった
キオクシアは一般消費者にはなじみの薄い社名だが、顧客には世界的なIT企業が並ぶ。
2026年3月期の有価証券報告書によると、Appleグループ向け売上は4760億円で、連結売上高の20.4%を占めた。売上のおよそ5分の1がApple向けだった計算である。
AI向けでも、顧客と組んだ具体的な事例がある。2026年5月、キオクシアは米デル・テクノロジーズのサーバー1台にキオクシア製SSDを40台載せ、9.8ペタバイトを収容する構成を同社と発表した。
ただし、前払いを提案した企業名は非公表で、AppleやDellが当事者だと確認されたわけではない。
こうした需要を取り込むうえで、次に問われるのは供給能力である。
「1兆円規模の新工場」にも着手
8月27日、日本経済新聞は、キオクシアが北上工場(岩手県北上市)に投資額1兆円超となる新製造棟を建設すると報じた。1兆円超は報道値であり、会社が確定額として公表した数字ではない。
27日、キオクシアは新製造棟「Fab3」の造成などの準備作業に入り、2029年度の稼働開始を目指すと発表した。
同日、キオクシアと米サンディスクは、2032年までに日本国内へ計310億ドル超(約5兆円)を投じる見通しを公表した。両社は四日市(三重県)・北上の両工場を拠点とする合弁事業で、フラッシュメモリーを共同開発し、生産設備に共同投資している。工場での製造と生産管理はキオクシアが担う。Fab3への投資も含む見通しで、政府の支援が前提となる。

