株価下落の理由は「客離れ」ではない

株価が下がったのには理由がある。6月26日に配信されたロイターの記事によると、6月26日にはOpenAIの上場延期観測をきっかけにAI関連株が売られ、キオクシア株も12%下落した。

7月28日にも、AIインフラ投資の資金調達、割高な株価、中国勢の技術進展への懸念から、アジアの半導体株が一斉に売られた。両日の下落からは、AI関連企業が期待どおりに成長できるかという市場の警戒がうかがえる。

個別の悪材料もあった。7月16日、米通信会社バイアサットが起こした特許訴訟で、米国の陪審はキオクシア側に2億2900万ドルの賠償責任があると認めた。評決は下落局面の後半に重なっている。キオクシアのリリースによると賠償に備えた引当金を4~6月期に計上済みだ。

当時、大株主であった米投資ファンド、ベイン・キャピタル系の持ち分縮小や、全株売却の観測も重荷になった。

たしかに、株価が下落する要因は複数ある。ここで分けて考えるべきなのは、株価が下がった理由と、足元の事業が弱ったかどうかである。AI投資の持続性や中国勢の成長は将来の収益を左右し、株価にも織り込まれる。一方、訴訟や大株主の持ち分縮小を含む今回の下落材料は、足元で顧客が離れ、出荷が落ち、開発が止まったことを直接示すものではない。顧客の動きを見ると、市場の警戒とは別の動きが起きていた。

買い手から出た異例の「前払い」提案

その動きを最もよく示すのが、顧客から出た「前払い」の提案である。

キオクシアは2月12日の決算説明会で、2026年に供給する製品はほぼ販売先が決まっており、一部のハイパースケーラー(巨大データセンターを運営する大手IT企業)から2027~2028年を対象とする契約と前払いの提案を受けていると説明した。

キオクシアの主力は、データを保存する半導体メモリー「NAND」だ。NANDを搭載した記憶装置がSSDで、AIサーバーやデータセンターで大量のデータを保存・読み出すために使われる。

マイクロチップ
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前払いでは、顧客が代金の一部を先に渡し、メーカーはその需要を見込んで設備投資や生産計画を組む。買い手側から前払い条件が持ち込まれたことは、顧客が将来の供給確保を急いでいる姿勢の表れとみられる。

もちろん、提案段階の前払いは将来の売上確定を意味しない。それでも、2月の提案後も長期契約の協議は進んだ。

6月2日のインベスター・デーで、キオクシアは2028年の予想出荷量の約50%について、複数年の長期供給契約(LTA)を結ぶ方針と、2029年以降の契約を希望する顧客が数社いることを質疑応答で説明した。

7月31日の決算説明会資料でも、50%目標に向けて協議が着実に進展しているとした。