ハザードマップに色がなくても「安全」とは限らない
豪雨から5日後、私は千葉県内の被災地を取材した。
これまで数々の災害現場を見てきた私が最も驚いたのは、「大雨災害が起きそうにない都市部」で甚大な被害が発生していたという光景である。
氾濫した川は、水面から道路まで5メートル以上の高さがあり、危ない川には到底見えなかった。千葉市中心部の広く平坦な道路脇に、浸水して動けなくなった車が何台も放置されていた。
「低い土地の浸水に注意」とよく言われるが、低地には見えない場所が水没していたのである。まさかこの整備された都市で溺れるほどの雨になるとは信じられなかった。
さらに、今回の豪雨ではハザードマップの浸水想定区域の外で、被害が起きてしまった。想定を上回る雨が降れば、リスクの高い地域の外で浸水することもあるという事実をつきつけた。
防災意識の高い人が陥る罠
スマホで雨雲レーダーを確認する人は、防災意識が高い人だろう。雨がいつ強まり、いつ止むのかを調べる。普段であれば、それでいい。
問題は、危険な状況が始まっているときだ。冒頭で紹介した男性もそうだった。目の前では道路の水位が上がっている。一方、スマホには「もうすぐ雨が弱まる」という予想が表示されている。
人間は危険な状況に置かれたとき、「自分だけは大丈夫だろう」と考えてしまう傾向がある。心理学でいう「正常性バイアス」である。
そこに「あと10分」という具体的な数字が加わると、目の前の異変より、スマホに表示された未来を信じたくなることがあるのだ。
テクノロジーは、私たちの判断を助けてくれる。ただ、それを「安心するための材料」として使うと、危険な場所にとどまる理由になってしまう。今回の豪雨を取材して、私はそこに怖さを感じた。

