「便器を焼く技術」が半導体で生きた

替えが利かないぶん、求められる水準は高い。

ウエハーは静電チャックに密着したまま、プラズマから絶えず熱を受ける。チャック側の熱伝導率、つまり熱の伝わりやすさがわずかにばらつくだけでウエハーは変形し、歩留まり(良品の割合)が落ちる、とブルームバーグは指摘する。

TOTOの決算説明資料には、衛生陶器の成形・焼成技術を新領域事業に転用していると明記されている。トムズ・ハードウェアはさらに詳しく、割れにくく強靭で、かつ全面で特性がそろったセラミックスを焼き固める難しい壁を、TOTOは長年の便器製造で培った成形・焼成の技術を応用して乗り越えた、と伝えている。

なかでも需要を牽引するのが、NAND型フラッシュメモリー向け装置だと、台湾ハイテク市場調査会社のトレンドフォースは説明する。

装置により製造されるフラッシュメモリー製品は、スマートフォンやデータセンターのSSDに使われる、電源を切っても記憶が消えないメモリーである。AIの利用拡大に伴い、まさに需要が急上昇している。

こうした水準を満たせるメーカーは限られる。トムズ・ハードウェアによれば、TOTOは1980年代から静電チャックを手がけており、現代では半導体製造に欠かせない重要な部材となった。競争力を高めるための投資を同社は続けており、2020年には大分県に約118億円を投じてセラミック生産棟を建設。2020年4月から2024年4月にかけて、セラミック生産の人員を約2割増やしている。

もっとも、市場を独占しているわけではない。トムズ・ハードウェアは、半導体製造装置メーカー各社およびアプライドマテリアルズと太いパイプを持つ新光電気工業を競合に挙げる。

技術者がシリコンウェハを手に取る様子
写真=iStock.com/Zoey106
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30年稼げなかった事業を変えた2つの転機

30年間、TOTOの新領域事業はほとんど利益を生まなかった。

1984年に発足したのち、静電チャックの量産開始は1988年であったと米テクノロジーニュースサイトのテック・タイムズは伝える。以後、決算は赤字かほぼ収益ゼロの年が続き、住設事業など他分野の利益で投資を賄い続けた。

転機は2つ。ブルームバーグによると、2020年の生産ライン一部自動化により収益性と市況悪化局面での耐性が改善し、利益の出る体質に変わった。

さらに、AI投資に沸くNANDメーカーの増産競争によって需要が伸びた。結果、セラミック事業の営業利益率は、2021年3月期ごろの9%弱から、2026年3月期には40%超へと跳ね上がる見通しとなった、とトレンドフォースは伝える。いずれも通期ベースの数字だ。

冒頭で触れた2027年3月期第1四半期の数字でも40.6%と、高水準を保っている。前期のセラミック事業の営業利益は289億円と、グループ営業利益538億円の5割超を占めた。

ところが、この収益構造の変化は株価に十分織り込まれていなかった。