人員削減できないとAI化の意味がない
「AIで業務が合理化されて余剰人員が発生しても、クビにはできません。別の部署で別の業務を担当し、今後も働きます。従業員が定年になるまで給料を払い続けるので、実際に人件費が減るのは数十年後の話です。コンサルティングは成功だと言えるんでしょうか」
M社は特殊な事例でしょうか。そうではありません。近年、日本企業はAI化だけでなくさまざまな経営改革を進めてきましたが、そこで問題の一つに挙げられるのは改革によって発生する「余剰人員」です。
わが国では、余剰人員が発生しても、「整理解雇の4要件」に該当しない限り解雇は違法です。
1:人員削減の必要性:企業の維持・存続のために、人員削減を行わなければならない高度な経営上の必要性があること。
2:解雇回避努力義務の履行:役員報酬のカット、配置転換、出向、希望退職者の募集など、解雇を回避するためのあらゆる努力を尽くしたこと。
3:被解雇者選定の合理性:解雇の対象者を選ぶ基準が客観的かつ合理的であり、公平に選定されたこと。
4:解雇手続の妥当性:労働組合や労働者に対して解雇の必要性や規模、時期などを誠実に説明し、十分な協議を行ったこと。
経営改革がうまくいったら【1】に該当しないので、AI化のみを理由とした整理解雇は、現行法上は認められにくいと考えられます。AI化だけでなく、利益減少などで経営状態が悪化した場合でも、雇用維持を重視する日本企業は解雇には慎重です。
「働かないオジサン」が増える構造
筆者がかつて勤めていた日本石油(現ENEOS)グループでは、国内の石油需要の減少などを受けて、下松・横浜・新潟・室蘭・沖縄・大阪の各製油所を閉鎖しました。
その過程では製造部門を中心に余剰人員が生じましたが、主として社内配置転換、関係会社への出向・転籍、定年退職による自然減、新卒採用の抑制などによって対応したとされています。そのため人員削減は段階的に進められ、製油所の合理化効果が人件費の面で直ちに表れにくい側面もあったように思います。
近年、中高年の余剰人員が「働かないオジサン」と揶揄されます。「中高年は能力・やる気が低い」という批判を見受けますが、こうしてみるとわが国では、本人の事情に関係なく、働かないオジサンが発生しやすい構造になっています。
そして、AI化によって、働かないオジサンがさらに増加します。従来は、業績不振の企業で余剰人員、働かないオジサンが発生しましたが、今後は多くの企業で発生する可能性があります。むしろ、AI化に積極的な成長企業・優良企業ほど、働かないオジサンが大きく増えるでしょう。対照的なのが、アメリカです。


