「若手は全員、現場に出ろ」の悪夢

そもそも、藤沢の異動には、部長同士の間でこれまでの経緯を踏まえ、最初から負荷を与える業務をさせないという協定があった。そのため、激務を負う部署に配置されることなく、比較的マイルドな部署に配置されてきたことで心も癒されてきた。

書影
大下英治『ルポ 電通 「日本最大のタブー」決壊の深層』(清談社Publico)

このまま、楽な部署でリハビリを続けさせてもらいたかったが、大組織改革により「若手は全員、現場に出ろ」という号令が組織的に出された。個人の思惑などまったく反映しようとはしない組織改変があり、藤沢には、一番行きたくない部署への異動の言い渡しである。

〈一番希望しない部署に配置するということは、「もう辞めろ」っていうことなのかな〉

正直、会社からの「いじめ」のように感じた。それでも、異動せずに辞めるのもしゃくだ。

〈部署の文化も変わったかもしれない。逃げずに、まずは頑張ってみるか〉

結局、ようやく落ち着いてきたところに、一番触れたくない光景を思い出す羽目になったことで、藤沢の肉体も精神もどんどん悲鳴をあげるようになってしまった。

〈もう、これ以上は無理だ〉

藤沢は、辞表を出した。

ネット台頭に置きざりにされる危機感

電通には、あまりにも古く、時代にそぐわない側面がたくさんある。

今は、クライアントにべったりくっついて仕事をとってくるような時代ではない。本当に知恵を持たないと、アクセンチュアやマッキンゼーなどのコンサル会社に勝てない時代になっている。

既存のマスメディアが落ち込み、インターネットが伸びてきた中、テレビCMや新聞広告に依存してきた電通は、「マスコミという下りのエスカレーター」から、「ネットという上りのエスカレーター」に乗りかえられるかが鍵となる。

しかし、藤沢は、電通がインターネット界をとらえることは、とても難しいとみている。

電通が、ネットの台頭に置いていかれると感じたのは、2000年代初めに登場したネット上の仮想世界「セカンドライフ」だ。そこで、不動産やお金をやり取りし、それが現実社会の利益につながると想定されたが、大失敗した。