現地の道路は台風被害で通行止め

金子社長の準備工事再開の要請に対して、川勝知事は、リニア工事現場につながる静岡市井川地区の沼平ゲートから二軒小屋までの全長27.3キロの静岡市の管理する東俣林道を早期に整備することを求めた。

2019年10月11日から12日かけて、台風19号が東日本に記録的な大被害をもたらした。東俣林道は2カ所で大崩落、30カ所以上で斜面崩壊、落石、土砂流出などに見舞われ、全面的に通行止めとなった。

いくら準備工事を行いたくても東俣林道の災害復旧が進んでいない状況を見れば、とうてい無理な話ではないかと川勝知事は言いたかったのだろう。

2019年、台風19号の被災状況を視察した川勝知事
筆者撮影
台風19号の被災状況を視察した川勝知事(当時)

それでも、川勝知事と金子社長のトップ会談が決まった。たった3カ月の準備工事だけであれば、それを許可することに何の障害もなかった。ただ、それには自然環境保全協定を結ぶことが前提条件となっていた。

もともと自然環境保全条例には、静岡県が協定を拒否できる規制力はない。

条例では、企業が自然環境保全協定を結ばないで工事に入った場合、「企業名の公表」くらいの罰則しかないのだ。静岡県が条例で企業に協定締結を求めているのであり、逆に、県が協定締結を拒否する事例などないのだ。

川勝氏は準備工事を認めるつもりだった

準備工事とは3つのヤードの樹木伐採、斜面補強や濁水処理設備の設置などを行うことである。ヤード整備は、川勝知事が許可権限を持つ河川法の占用許可とは全く関係のない話である。JR東海は県の自然環境保全条例に基づいた協定を結べばいいだけの話である。

それは川勝知事も承知していた。

6月26日のトップ対談で、金子社長は「ヤード整備は水環境問題とは関係ない。それ以前の問題と理解してもらいたい」と話して、準備工事の再開を求めた。

それを受けて、川勝知事は「県自然環境保全条例は5ヘクタール以上の開発整備であれば協定を結ぶ。県の権限はそれだけである」と回答した。わざわざ、トップ会談を行うほどの話ではないと言っているのだ。事務方同士で調整すれば、それで済むような話である、と正確に理解していた。

だから、会談の終わったあとの囲み取材でも、川勝知事は「条例に基づいて協定を結べばよい。活動拠点を整備するならばそれでよいと思う」などと述べ、かたちの上では準備工事を認めていた。