こうしたAfDが政権を取れば、ロシア産の天然ガスの再輸入への道が開けるかもしれない。しかしAfDは、政治的には右派でも経済的には左派色が濃い。つまりAfDは、もともとは旧東ドイツの後発地帯で支持を広げてきた政党だ。後発地帯である旧東ドイツの国民の利益を代弁する以上、被用者よりも雇用者の権利を重視する傾向が強い。

つまり、仮にCDUとAfDによる右派連立が発足したとしても、雇用の流動化は望みにくい。SPDを中心に緑の党や左翼党などが合流した左派連立が発足すれば、それはなおさらのことだ。相当な決意が政治と国民の中でなされない限り、ドイツで雇用の流動化が進むことは期待できず、ゆえに経済の高コスト化も改善が見込み難くなる。

投票用紙のAfDを指さす手元
写真=iStock.com/Victor Golmer
※写真はイメージです

ドイツの国際競争力の改善を考えた場合、エネルギーコストの問題は確かに大きい。しかしエネルギーコストの問題は、一方で省エネを通じた体質の改善に貢献する側面もある。そう考えると、その改善が政治的に容易ならざるという点も含めた場合、労働コストの問題の方が、ドイツ経済に与える悪影響は深刻だと言っていいのではないか。

防衛産業への注力は可能か

そもそもメルツ首相は、オラフ・ショルツ前首相が率いた左派連立政権の下で進んだドイツ経済の高コスト化の改善を強く訴えていた。欧州連合(EU)による産業への過剰規制にも批判的だったが、結局のところ、VW社のリストラが阻まれた現実が物語るように、ドイツ経済の高コスト化の改善を促すような政策に取り組めていない。

他方で、時代の要請もあり、メルツ首相は防衛産業に巨額の資金を割り当て、その支援を強める姿勢を強めている。閣議決定された2027年度の予算案でも、防衛費は1097億ユーロと前年から270億ユーロの増額を見込み、予算総額に占める割合も21%と19%から上昇する。ただしこうした“軍需”は強いクラウディングアウト効果を持つ。

つまりヒト・モノ・カネの制約が厳しい中で軍需が膨張すれば、民需向けのモノやサービスの生産が圧迫され、インフレが加速し、経済の高コスト化に拍車がかかる。VW社のみならずドイツには輸出企業が多いため、軍需向けのモノやサービスの増産で得るものよりも、民需向けのモノやサービスの減産で失うものの方が大きいかもしれない。

このように整理すると、VW社の苦境もさることながら、ドイツ経済そのものが厳しい状況であることがよく分かる。一方、日本をはじめとする先進国は、程度の差はあれ似たような問題を抱えている。言い換えると、困難ではありつつもこうした課題にいち早く対峙する国こそ、今後のグローバル経済を優位に先に立つことができるのだろう。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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