雇用の流動化を回避してきたツケ

ここで、この20年間におけるドイツの景気と雇用の関係を、散布図を用いて確認してみたい(図表1)。基本的に好景気であれば雇用は増加(第一象限)し、不景気であれば雇用は減少(第三象限)する。しかしコロナショック後、具体的には2023年と2024年の2年間だけ、マイナス成長にもかかわらず雇用が増加(第二象限)している。

2023年から2024年の2年間で、ドイツ全体の雇用者数は35.8万人増加している(図表2)。ただし産業別に見ると、製造業は7.3万人、建設業は2.9万人、農林水産業は1.2万人の雇用が失われている。つまり全体の雇用者数の増加を牽引したのはサービス業であり、その中でも医療や介護、教育など公共サービス分野が堅調である。

【図表】ドイツの景気と雇用の関係
(出所)ドイツ連邦統計局
【図表】主要産業別に見た雇用の増減数(2023年から2024年まで)
(出所)ドイツ連邦統計局

戦後のベビーブーマー世代が相次いでリタイアしたことで、ドイツでも他国と同様、構造的な人手不足が生じている。一方、競争力を失った製造業では雇用の余剰が、また少子高齢化の波を受けた公共サービス分野では雇用の不足が意識されている。仮に雇用が流動的ならば、産業ごとに生じている労働需要の過不足を調整できるわけだ。

もちろん、現実の世界はこう単純ではないから、産業ごとの労働需要の過不足など簡単には調整できない。だからといって、労働市場を可能な限りこのような方向にもっていかないことには、慢性的な人手不足の問題は改善しないし、経済のコスト高も解消されない。雇用者に配慮して労働市場改革をどう進めるかが政府の本来の腕の見せどころだ。

しかし、今のドイツ政府にそれを期待することは難しい。フリードリヒ・メルツ首相が率いる与党のキリスト教民主同盟(CDU)の支持率は、大連立を組むライバル政党の社会民主党(SPD)と同様に低迷が続いている。またCDUが雇用を流動化させようとしてもSPDがそれを阻む関係にあるため、労働市場改革など進みようがない。

右派政権ができても難しい雇用の流動化

他方で、支持率調査で首位を走る右派の「ドイツのための選択肢」(AfD)が政権を取った場合はどうだろうか。例えばエネルギーコストの問題に関しては、AfDが政権を取った場合、ロシアとの関係が改善し、ある程度の“揺り戻し”が生じるかもしれない。AfDはロシアとの関係改善を主張し、ロシアもまたAfDを重視しているためだ。

例えばAfDのマルクス・フロンマイヤー議員は、ドイツの企業団らと6月3日から6日にかけてロシアの古都サンクトペテルブルクで開催された国際経済会議に出席している。その場で、ロシア最大の国営ガス会社であるガスプロムの経営陣と会談を行い、両国を結ぶパイプライン・ノルドストリームの再開について協議をしたところだ。