聞かれることは少ないが「重要な問い」

前出の「若手社会人の在職理由定量調査」によると、若手社会人(20〜39歳、正規社員)で「辞めない理由を上司・人事に伝えている」のはわずか18.9%である。伝えない主な理由は「聞かれないため」が46.9%で最も多く、「話す機会・場がないため」が30.2%で続く。つまり、“組織側からの問い”がすっかり抜け落ちているのだ。

「KEEP」と書かれたブロックを持ってOKポーズをとるビジネスマン
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かつては、日本の職業社会の暗黙の了解があり、「なぜ辞めないのか?」を問う意味が薄かった。外部労働市場が不成立の社会――つまり、大手企業の中途採用求人がごく少数で外部労働市場の競争が乏しく、自らに合う条件の転職先がなく、あまつさえ転職で年収が下がっていた社会――では、辞めると損をする可能性が高かった。辞めると損をするのだから、辞めない理由など必要なかったのだ。

しかし、転職の合理性が高まってしまったいま、「なぜ辞めないのか」を問わない・話さないという「沈黙」は、合理性を失いつつある。

なぜ「辞めた理由」ばかり聞くのか

職業社会・企業社会の構造が大きく変化してきたのに、なぜ日本企業は、残って頑張っている若手に「辞めない理由」を聞かず、退職していった若手に「辞めた理由」ばかり聞くのか。この「Why」の偏りの背景には何があるのだろうか。

筆者が企業でマネジャーを務める方々に「あなたは、なぜいまの会社を辞めないんですか?」と聞くと、「考えたこともなかったな」「そう言われると、なぜだろうね」といった率直な反応がある。また、「生活のためだ」「“仕事”だから当たり前だろう」といったお答えも見られる。

もちろん、生きるうえで食っていくために仕事をするのに理由なんて必要ないんだ、というプロフェッショナリズムには敬意を表したいと思う。しかし、ほかにもっと良い職場や求められる仕事がある可能性が高い若手にとっては、残念ながらそれはほとんど“理由”とは感じられない。

とはいえ確かに、10年ほど前、外部労働市場が不成立の社会では「辞めない理由」など、必要なかったのだ。「考えたこともなかった」。当時、優秀で社内で出世していける可能性が高い若手だった人ほど、そう答えるだろう。

しかし、社会は変わったのだ。

現代の労働市場では、転職が一般的となり、若手社員が自らのキャリアについて主体的に選択できる環境が整いつつある。企業側が「辞めない理由」を積極的に問いかけないままでいることで、現場に定着している・定着しようとしている人材の本音や意欲が見落とされている可能性がある。

それは、これからの組織づくりやマネジメント、人材育成において損失となる。なぜなら、社員が会社に残ることを選択する理由には、単なる生活のためだけでなく、職場環境や人間関係、成長の機会、企業理念への共感、同僚への期待など、まさにその会社の特徴や強さを構成する多様な要素が含まれているからだ。