若手が不満を挙げた「本当の理由」

そのなかでも盛んに気勢を上げていた、つまりたくさんの不平不満の声を発していた数名の若手に、終了後に「会社に対していろいろ思うところがあるんだね」と声をかけた。

すると、彼ら彼女らは、ほぼ共通する返答をした。

「いえ、実際はそんなに悪い気持ちはないんですけどね」

また、「聞かれたから探して答えた」という趣旨のこともあわせて言っていた。

筆者が重要だと感じたのは、人間、不平不満を聞かれればどんどん出てくるものだ、ということだ。この世に、働いている組織に対して不平不満が全くない人間など存在しない。みな何かしらの不平不満があるのだから、聞かれればどんどん出てくる。しかし組織への不平不満がたくさんあるからといって、それは組織を悪く思っているかどうかとは別の問題なのだ。

これは以下の2つの焦点を示唆している。

ひとつは、人間はネガティブな理由とポジティブな理由の比較衡量こうりょうで、組織への総合的な感情を決定しているということだ。

働いている会社に対して100%素晴らしいと思っている社会人は存在しない(会社の創業者など、一部存在するかもしれないが)。ネガティブな理由は多々あるが、それ以上のポジティブな理由がある。この均衡関係によってその会社で働くことに“満足している”人の心理が形づくられる。

もちろん満足していない人も同様で、ポジティブな気持ちはあるのだ。不平不満がある人が、その組織に全く魅力を感じていないわけではない。

ポジティブな理由はオープンにされにくい

もうひとつは、不平不満があろうと逆にポジティブな気持ちがあろうと、それほどオープンには話さないということだ。多くの社会人は、組織への気持ちを殊更ことさらにアピールなどしない。「辞めた理由」という形でネガティブな理由を75.6%の人が話しているのは、それが組織側から正式に尋ねられたからである。

古屋星斗『あの若手はどうして辞めないのか 変わる社会と変わらない若者の本音』(朝日新書)
古屋星斗『あの若手はどうして辞めないのか 変わる社会と変わらない若者の本音』(朝日新書)

また、ポジティブな理由は気恥ずかしい部分もあるのか、オープンにしにくい。このことは、「日頃は黙っているが、実は辞めたいと思っている」、あるいは逆に「日頃は黙っているが、実は静かに納得している」という状態の若手がたくさんいるということを示唆する。

さて、ここで若手が「辞めない理由」「その会社で働き続ける理由」について確認しておこう。

ここまで見てきたように労働市場が変化し、加えて選択の回数が増え、「転職がしやすくなった、転職する人が身の回りに増えた」ということは、「なぜ自分はこの会社を退職しないのだろうか」と考える機会が否応いやおうなく増えてしまうことでもある。

実際に、前出の「若手社会人の在職理由定量調査」で「自社を辞めない理由、続ける理由」について若手社会人に聞いたところ、84.9%はその理由を回答していた。回答内容には次のような広がりがある。