中国のニーズに合わせた新興北レス

一方、こうした「王道」のスタイルからの脱却を図り、現代の中国市場のニーズに合わせてしたたかに業態を変化させている「新興北レス」も勢力を伸ばしている。

その筆頭が、ビールに特化した北朝鮮式ビアホール「朝鮮3号ビール工房」だ。北朝鮮を代表する銘柄「大同江ビール」を手掛ける会社が中国企業と合弁で展開しており、本来なら平壌でしか味わえない多様なフレーバーの生ビールを堪能できる。店の1階には平壌で発行された大同江ビールの記念切手セットが販売されているが、その図案にはこの店舗も描かれており、北朝鮮側の会社からも「平壌のビアホールの公式な海外支店」として扱われていることがわかる。

名物の「大同江ビール飲み比べセット」。一般的なビール(右端)から平壌でしか味わえなかった黒ビール(左端)まで楽しめる。
筆者提供
名物の「大同江ビール飲み比べセット」。一般的なビール(右端)から平壌でしか味わえなかった黒ビール(左端)まで楽しめる。

料理のラインナップも従来の北レスとは趣が異なる。恐らくビールに合わせるためだろう、上品な薄味が基本の北朝鮮料理にしては珍しく、辛味や味の濃いメニューが中心だ。名物の冷麺は胡椒がガツンと効いたジャンキーな味わいで、ビールに合うドイツソーセージまで提供されている。

そして何より驚かされたのは、店員の接客態度が非常にフランクなことだ。北朝鮮人の従業員が、恰幅の良い筆者に向かって中国語のスラングで「胖胖(パンパン=太っちょ)」とからかってくるなど、従来の厳格な北レスでは絶対にあり得ない、お客「様」という価値観すらない、非常にロックな運営が行われている。

ショーのない純粋な飲食店「民達来」

もう一つ、北京で最近開業した「民達来」も新時代を感じさせる店舗だ。これまでの北レスといえば、巨大なホールに円卓が並び、定時にきらびやかなショーが行われるのが定番だった。しかし、この店にはそもそもショーを行うためのステージが存在しない。店内はプライベート空間を重視した間仕切りのあるボックス席を基調としており、「純粋な飲食店」としての側面を強く押し出している。

主力メニューは焼肉で、驚くべきことに日本の「和牛」も提供されている。ステージでの歌や踊りがない代わりに、従業員の「服務(サービス)」の質は極めて高い。店員がつきっきりで目の前の肉を最適な焼き加減で仕上げ、冷麺も丁寧に取り分けて混ぜてくれるなど、高級焼肉店も顔負けのホスピタリティを誇る。

このような方式は恐らく中国の最近の店舗などをよく学習しているのだろう。伝統や政治的な威厳に固執せず、客単価を上げるために業態を柔軟にシフトしていく姿には、外貨獲得への執念とも呼べるたくましさが息づいている。