北京にある北レス最高峰「玉流宮」

では、具体的にどのような店舗が現在、中国で営業しているのか。2024年からの2年ほどで20店舗以上を訪問した筆者が実際に踏破した店舗群の中から、まずは我々が思い描く「往時の姿」を色濃く残す老舗店舗から紹介していきたい。

その筆頭が、北京に店を構える北レスの最高峰「玉流宮」だ。ここは平壌の超有名冷麺店「玉流館」が展開する唯一の海外支店という特別な格付けであり、提供される平壌冷麺や特産料理のクオリティは群を抜いている。毎晩19時に開催される華やかなステージでの歌や踊りのショーも名物だが、この店の真骨頂は奥まった空間で提供される「裏メニュー」的なサービスにある。

北朝鮮で独自に発展した「銅盤式」の冷麺は北レスの醍醐味だ。
筆者提供
北朝鮮で独自に発展した「銅盤式」の冷麺は北レスの醍醐味だ。

首都に店舗を構える北レスという性質上、北朝鮮当局者が安全に利用できる接待の場としての役割も担っているのだろう。事前に電話予約をすると、普段は通されることのない2階の豪奢な個室で食事をすることができる。しかも、そこで給仕する店員に500元のチップを渡すと、自分たちだけのプライベートな空間で、歌や楽器演奏を独占的に披露してくれるのだ。かつては他の都市の老舗店でも見られた接待形式だが、昔と違って人手不足の今なお実施しているのは、今やここくらいだろう。

中朝国境にある老舗「丹東高麗飯店」

一方、中朝国境の街・遼寧省丹東に位置するのが、歴史ある老舗「丹東高麗飯店」だ。看板のロゴマークや名称から、平壌を代表する名門「高麗ホテル」の直系支店と推測される。

ここの名物である平壌冷麺は、和風出汁を思わせるような澄んだ深い味わいがあり、一般的な北レスとは一線を画す特有の滋味がある。さらに驚くべきことに、分厚いメニュー表には、かつて帰国事業などで北朝鮮へ渡った在日コリアンが伝えたとされる「オムライス」も並んでいる。

丹東高麗飯店のモダンで高級感のある外観。
筆者提供
丹東高麗飯店のモダンで高級感のある外観。

また、この店で食事をしていると、他の地域とは異なり、朝鮮語を話す客を見かけることが頻繁にある。従業員に対して横柄に「奉仕員(北朝鮮の言葉で従業員を指す)」と呼ぶ振る舞いから分かるが、ここは中国で活動する北朝鮮当局者や貿易商たちの「御用達」なのだ。国境の街という立地ゆえに本国の人間が日常的に利用するという事実が、この店の味の信頼性を何よりも保証している。