なぜ中国でさえも彼に一目置いたのか
では、なぜ安倍氏の発想はこれほど広く浸透したのか。その理由は、彼のやり方にあると私は考えている。それは、現実的で、成果を生むことに焦点を当て、しかも実現可能なものだった。
世界には、理想を語るだけの政治家はいくらでもいる。だが安倍氏は違った。予測がつかず気まぐれなトランプ大統領のような、扱いの難しい相手とさえ、辛抱強く関係を築いていった。彼は単に理想を語っただけではない。現実の世界で実際に何が達成できるのかを考え抜き、本物の成果を出した。このやり方は、主要国によるG7サミットのような舞台で高く評価されたのである。
ここで、しばしば誤解されている点について述べておきたい。
長年にわたり、中国は日本を見るとき、そこに「永遠に衰退し続ける国」を見ていた。バブル経済が崩壊して以来、首相が次々と入れ替わり続けたからだ。政策の継続性もない。リーダーシップもない。ビジョンもない。中国の目に、日本はもはや取るに足らぬ存在と映っていた。
私が、中国は安倍氏に「敬意を抱いた」と言うとき、それは彼らが安倍氏を好いていた、あるいは支持していたという意味ではない。そのどちらでもない。私が言いたいのは、彼らが認めざるを得なかった、ということだ。
安倍氏は、四半世紀近くにわたってどの日本の政治家にもできなかったことを、やってのけた。日本にビジョンを与えた。日本の自信を再起動させた。力による現状変更の振る舞いに、毅然と立ち向かった。そして国際舞台へと躍り出て、こう示してみせたのだ。日本は今なお重要であること。日本は必要とされていること。日本には独自の発想があること。そして権威主義国家に抵抗することで、世界をより良い場所にする力が日本にはあること。
中国とは、相手の「強さ」、「揺るぎないリーダーシップ」、「現実に根ざした明晰な判断力」に敬意を払う国である。逆に、中国が最も軽んじるものは「弱さ」だ。曖昧で、ぐらつき、何を考えているのか読めない相手を、中国が敬うことは決してない。
安倍氏は、まさにその「強さ」を備えていた。だからこそ、敵対する者でさえ、彼を本気で相手にせざるを得なかったのである。
安倍路線を受け継ぐ高市首相がすべき3つ
安倍路線を受け継ぐ政治家と目されている高市早苗首相は、どうするべきか。単に「安倍氏の威を借りる」だけでは、世界は決して満足しない。大切なのは、言葉のうえで安倍氏の遺産をなぞることではない。自らの行動を通じて、その本質を体現することだ。
そのために、私は高市首相に、そして日本に、3つの提言を差し上げたい。
第1は、アメリカとの強固な関係を、それも本気で築くことだ。
これは単なる「友好ごっこ」ではない。求められているのは、日米同盟への真剣なコミットメントであり、技術や防衛面での協力であり、そして、どれほど厄介な事態になろうとも外交対話を続け抜くという覚悟である。ひとことで言えば、「本気の関与」だ。
そしてここで何より重要なのは、個人的なプライドよりも国益を優先するという姿勢である。相手が手強くとも、感情に流されてはならない。日本の国益のために、関係を粘り強く保ち続けるのだ。これこそ、安倍氏がトランプ氏との関係で示してみせたことにほかならない。
第2は、途上国を支えるための仲間(連合)を築くことだ。
ここで言う「途上国」とは、東南アジア、南アジア、太平洋島嶼国、そしてアフリカの国々を指す。これらの地域、いわゆる「グローバル・サウス」は、これからの世界の方向を左右する重要な存在となりつつある。
もし日本と先進諸国がこれらの国々を支えなかったら、どうなるか。その役割は、代わりに中国とロシアが担うことになる。そうなれば、これらの国々は次第に中国とロシアの影響下に入っていく。それは私たちにとって、大きな損失だ。だからこそ日本は、志を同じくする国々と手を携え、これらの国々の発展を支える側に立つべきなのである。
第3は、偽情報(フェイクニュース)と戦うための仲間(連合)を築くことだ。
いま、中国・ロシア・北朝鮮の3カ国は、インターネットなどの手段を使って、膨大な量の嘘と偽情報を世界中にばらまいている。その狙いは、自由で開かれた社会を内側から揺さぶることだ。人々のあいだに不信を植えつけ、社会のまとまりを引き裂くことにある。
実際、2025年11月に高市首相が台湾をめぐる発言を行った際、中国は激しい偽情報攻撃を仕掛けてきた。こうした攻撃は、もはやひとごとではない。日本は、同じ価値観を共有する国々と腕を組み、偽情報の脅威に真正面から立ち向かう必要がある。

