日本にもっと前に出てほしい

まず理解しておくべきは、海外の意見が決して一枚岩ではないということだ。安倍氏を高く評価する声もあれば、批判的な声もある。それはごく当然のことだろう。

それでも、誰もがはっきりと一致している点が一つある。中国、ロシア、北朝鮮といった一握りの国々を除けば、世界の大半は、日本にもっとリーダーシップを発揮してほしいと願っているのだ。

これを意外に思う読者もいるかもしれない。日本には「出る杭は打たれる」という言葉がある。実際、戦後の日本は国際社会のなかでできるだけ目立たぬよう、前へ出ることを避けて懸命に低姿勢を保ってきた。だが世界が日本に求めているのは、まさにその正反対なのだ。「もっと前に出てきてほしい」「あなた方の知恵と経験を、私たちと分かち合ってほしい」。世界はそう言っているのである。

なぜか。それは、世界がきわめて複雑で困難な時代に突入したからだ。経済をめぐる争い。技術をめぐる競争。そして中国のような「手強い大国」とどう向き合うかという問題。これらは、多くの国々を眠れぬ夜へと追い込んでいる難題である。そして日本こそ、そうした厄介な隣国と長年向き合ってきた「経験豊かな先輩」にほかならない。

「自由で開かれたインド太平洋」という発明

安倍氏が世界に遺した最大の贈り物は、「自由で開かれたインド太平洋」という構想である。少し難しい言葉に聞こえるかもしれない。だがその本質は、こういうことだ。太平洋からインド洋へと広がる広大な海を、いかなる国も力によって支配できない場所にする。すべての国がルールに基づいて安全に航行できる地域にする。そういう構想である。

安倍氏はまた、今日「経済安全保障」と呼ばれるものの礎を築いた。これは、半導体やエネルギーといった、私たちの暮らしや産業に欠かせないものについての考え方だ。それらを特定の一国に過度に依存してはならない。足元を見られ、付け込まれるような状態に陥ってはならない。そういう発想である。

驚くべきことに、こうした安倍氏の発想は、その後アメリカをはじめとする多くの国々に取り入れられていった。一人の日本の元首相が打ち出した構想が、やがて世界の「常識」となったのだ。これは、戦後日本外交の歴史において、きわめて稀有な出来事であった。

2022年9月27日の故安倍晋三国葬儀の様子
2022年9月27日の故安倍晋三国葬儀の様子(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons