「社長の論文」を読んで入社する人も

鈴木氏自身、三重大学大学院で野生酵母の研究分野において博士号を取得した研究者だ。その論文を読んだことがきっかけで入社した社員がいるほど、伊勢角屋麦酒は研究開発型ブルワリーとしての存在感を高めている。京都大学大学院や大阪大学大学院などで博士号や修士号を取得した人材が集まるのも、その研究姿勢への共感があるからだ。

研究の核心にあるのが「酵母」だ。麦汁をビールにするこの微生物を、ほぼ全てのメーカーが外部から調達する中、伊勢角屋麦酒はオリジナルの酵母を自社開発する。東京大学大学院や島津製作所との共同研究も行い、新たなビール開発に積極的だ。

こうした環境の中で、社員は「ブルワー」という社内資格を取得すれば、自らビールを設計・醸造し、限定品として市場に出すことができる。2023年入社の馬場建吾氏は入社2年目で7人目のブルワーに就任し、限定醸造ビール「Nostalgic Gate」を開発した。社歴や経験に関係なく、やる気と能力があれば挑戦の機会が与えられる。

「Nostalgic Gate」
画像提供=二軒茶屋餅角屋本店
「Nostalgic Gate」

「人材こそが最大の経営資源」

実験的ブランド「KADOLABO」では、野生酵母の研究やワインと蜂蜜酒の融合など、やってみなければわからない取り組みを続ける。ここでの成果がISEKADOブランドの新製品として転用される仕組みだ。

鈴木氏は「人材こそが最大の経営資源」と言い切る。

「お金は銀行から借りられる。物はお金で買える。しかし人は簡単には確保できない。研究開発の経験や知見は人に宿り、それをやり続ける企業文化も人に宿る。いかにいい人を採用して、居続けてもらって、伸ばしていくかが何よりも大事です」

経営計画書に2度登場する言葉がある。「社員は我が社の宝です。我が社の宝である社員にふんだんに教育費を使って教育をし、磨き上げます」――鈴木氏が最もこだわる一文だ。

社の教育方針
筆者撮影
教育方針。鈴木社長がこだわる一文だ