受験と入学後の大きなズレ
大学入試で問われる力と、入学後や社会で必要になる力の間には、年々大きくなるズレがある。
きっかけは1980年代のパソコンの普及だ。それ以前はすべて手計算で、数学が分からなければ何も計算できなかった。「数学ができる」ことが、数学が必要な研究や実務ができることとほぼ同義だったのである。
ところがパソコンの登場で状況は変わる。
数学が分からなくても機械が計算してくれるようになった。
もちろん、計算結果の解釈には数学の素養は必要だが、1990年代までのように計算用のプログラムを自分で書く必要はかなり少なくなり、市販ソフトがかなりの計算をこなしてくれるようになった。
「計算を実行すること」と「数学を理解していること」が、すっかり切り離されてしまったわけだ。
それでも大学入試は今も「手計算で解く力」を測り続けている。
一方、入学後に問われるのは計算そのものではなく、「何を計算すべきか」「結果をどう読むか」というまったく別の力だ。ここに受験と入学後の大きなズレがある。
理系でも数学がそれほどいらない分野がある
文系か理系かを「数学の得意・不得意」で決めるべきではない理由には、二つの面がある。
一つは、理系でも数学(正確には計算)がそれほどいらない分野がある、ということだ。
農学系や生物系であれば、有名大学でも数学IIIを課さない理系学部が存在する。こうした学部ではフィールドワークや観察、実験が中心で、高度な微分積分を日常的に使うわけではない。
実験データ等の処理も計算自体はソフトがやってくれる。「数学が苦手だから理系は無理」と、最初から選択肢を狭めるのは、もったいない話なのだ。
意外に思われるかもしれないが、これは医学部にも当てはまる。
一般に医学部の数学は数学IIIまでが範囲とされるが、一部の私立大学では数学IIIを課さない医学部が存在する。
さらに踏み込んだ例が弘前大学医学部である。同学部は令和3年度(2021年度)入試から、個別試験の「英語・数学」をやめ、科目の枠を明示しない「総合問題」に切り替えた。
事実上、二次から数学という独立科目が外れ、共通テストでしか数学を使わずに国立医学部を目指せる珍しい選択肢が生まれた。
この措置は令和7年度(2025年度)入試から廃止され、いまは数学・英語に戻っているが、国立の医学部ですら個別試験から数学を外す判断があり得るということだ。
入試科目は固定された前提ではなく、各大学の都合で動くものなのだ。

