信用できない、無下にもできない
このように、直家は毛利の上洛計画を手土産に、播磨の国人衆を自分で口説いて回っている。しかも「近いうちに上洛」という、あてのない話で、その気にさせている。そもそも、直家は毛利氏の譜代でもなんでもない。最近、傘下に入ったばかりの外様である。おまけに、もとの主人であった浦上氏を打倒して権力者になった男だ。
毛利氏としても、今は権力はあるが下剋上で成り上がった信用できない男のはず。直家もそんなことは承知の上で「毛利様が動くんですよ!!」と口説いている。しかも、謎の説得力で、赤松氏をはじめとする国人衆を、ならばと毛利になびくほうに動かしている。
それでいて、自身は兵力を出し惜しんだり、裏では信長とも交渉ルートを開拓したり、どっちの陣営にとっても信用できない相手である。
でも、信用はできないくせに備前をしっかり確保している。すなわち、海と陸に加えて、川を通じた中国山地と瀬戸内海とのルートまでが直家の手にある。おまけに、奇妙なほどに味方を増やしてくれる交渉力もある。
だから、どちらの陣営も「直家、信用できない……」と思いながらも無下にはできない。ここまでできるのは、直家の才能以外の何物でもない。
“梟雄”の自覚はなかったのではないか
この直家という男、主君・浦上宗景を追放して備前を掌握。敵対する三村家親を当時は最新兵器だった鉄砲で暗殺。時には家臣まで謀殺したという数々の事蹟から斎藤道三・松永久秀と並んで「戦国三大梟雄」とも呼ばれる。
もっとも、こうした悪役的エピソードは江戸時代以降の軍記物語が盛んになってから根付いたものともされている。近年、宇喜多氏を大河ドラマにする機運が盛り上がっている岡山県では、そうしたイメージを覆す再評価が盛んだ。内部が博物館になっている岡山城では、梟雄というイメージは間違いだと主張する展示まで行い、イメチェンを“謀って”いる。
後世の語り手たちにとって、直家は便利なダークヒーローとして利用された面もあるだろう。ただし、直家には自分が梟雄だとか、評判の悪い人物になっている自覚もなかったろう。なぜなら、人は裏切るもの、誰も考えつかないような暗殺や謀殺を企むことは、彼にとって、日常生活に溶け込んだ行為だったからだ。

