部下に好印象の一言とは
bの「モンブランが好きって言ってたよね」という発話は、以前に相手が話していたことを覚えていると伝えるものです。これによって「あなたに注意を向けている」ことを伝達し、距離を近づけようとする思惑があります。これも、過去に話した話題であれば何でも構いませんので、日常生活での応用範囲は広いといえるでしょう。
cのように、相手がいつもさりげなく行ってくれている掃除についてちゃんと気づいていることを伝える発話は、ただ単に「気づいている」ことを伝えるだけではありません。
相手を賞賛することにもつながりやすいですし、自分だけが気づいているというのは二人で秘密を共有するようなものですから、PPS-4「内輪である標しを用いる」にも似た効果があります。その分、相手のポジティブ・フェイスを満たす効果はより大きくなるのです。
dの「ちょっと寒くない?」という発話は、相手の欲していることを察してあげているものですから、先ほど見た、資料を差し出した上司Cと同じです。上司だけでなく、部下が上司のニーズを察してあげることもあるでしょうし、店員がお客様のニーズを察してあげる場合もあるでしょう。これも日常生活のあちこちで見られるポライトネス行動です。
部下のちょっとした一言に隠された思惑
ここまで、相手に対して「気づいている」ことを伝える例を見てきました。しかし逆に、相手の方も同じポライトネス行動をしてくれているはずです。そんな他者からのポライトネス行動に気づいていますか?
上記で見たものは非常にわかりやすいものばかりでしたが、中には気づきにくいものもあります。それが次の例の部下の発話です。
部下:あっ、部長。はい、そうなんです。
上司:資料作成は順調に進んでる?
部下:あっ、はい、だいたい完成しています。
上司:じゃあ今から見てあげるよ。ミーティングルームで。
部下:あっ、でも、部長もお忙しいのでは……。
さすがに3回も出てきたので皆さんもお気づきのことと思いますが、部下の発話はどれも「あっ」から始まっています。これは、何かに気づいたときに無意識のうちに発話してしまうものです。
ちょっとオドオドしているような印象を与えてしまうかもしれませんが、この「あっ」は相手(の存在や発話意図)に気づいていることを示す思惑があり、特に目下の人が目上と話している際によく聞かれます。
さすがに連発するのはどうかと思いますが、それだけ小刻みに気を遣っているのです。その証拠に、気心の知れた友人同士では、この「あっ」は滅多に聞かれません(本当に何かに気づいたときにはもちろん発話しますが)。
皆さんも、職場でこんな「あっ」をぜひ観察してみてください。気を遣う部下の思惑だけでなく、データを収集する言語学者の気持ちもよくわかりますよ。


