相手との距離を上手に詰められる言葉は何か。言語学者の尾谷昌則氏は「日頃の挨拶にたった一言付け加えるだけで、相手が親近感を持つようになる。しかし“相手に近づきすぎる一言”には要注意だ」という――。

※本稿は、尾谷昌則『その言葉の本当の思惑を見抜く 言語学』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

クロスハンドでストップサインをする女性
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会話で人の欲求をくすぐるテクニック

人は誰しも、「他者に認めてもらいたい・よく思われたい・近づきたい」というポジティブ・フェイス(積極的な欲求)と、「自分の自由や権利を侵害されたくない」というネガティブ・フェイス(消極的な欲求)を持っています。

まずは、次の会話を見てみてください。

A:田中さん、おはようございます。
B:うん、おはよう。あれ、そのイヤリング、新しく買ったやつ? ピンクだけど派手すぎないし、華やかな感じで似合ってるね。

実はこの会話には、何気ないやりとりの中に、相手のポジティブ・フェイスを満たす例が隠れていました。皆さんはいくつ気づけたでしょうか。

相手のポジティブ・フェイスを満たしてあげる配慮行動のことを「ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー(PPS)」(ポジティブ・ポライトネス行動)といい、以下の15つに分類されます。

【図表1】ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー(PPS)の例
出典=尾谷昌則『その言葉の本当の思惑を見抜く 言語学』(サンマーク出版)

服装や持ち物を褒めるというBの行動は、相手の「他者に認められたい」というポジティブ・フェイスを満たすベタな方略です。〈褒め〉というのは言葉をプレゼントするようなものですから、PPS-15「(物・共感・理解・協力を)相手に贈与する」に相当します。

もちろん、何かを競うような場合であれば、賞金・賞品・賞状といった具体的な「物」を贈与するのもこれに当てはまりますし、〈お手伝い/助力〉なども労働力を贈与するという意味でこれに当てはまります。

相手に何かを〈贈与〉するという行為は、相手を認めた証になるため、相手のポジティブ・フェイスを満たしてやるポジティブ・ポライトネス行動ということになるのです。

「田中さん、おはよう」に隠された意図

しかし、それと同じくらい重要なポジティブ・ポライトネス行動が他にもあります。それは、普段のイヤリングとの違いに気づいてあげるというBの行動です。

普段との違いに気づくということは、それだけ普段からAに対して注意を払っている(=Aを重要視している)ということであり、これも相手のポジティブ・フェイスを満たす行動になるのです。こちらはPPS-1「相手に気づき、注意を向ける」に相当します。

それ以外にも、実は「おはよう」や「田中さん」といったAの発話も、PPS-1となっています。普通なら、見知らぬ人とは挨拶を交わしませんし、それがどんな人だったかなど気にもかけないでしょう。しかし、挨拶をすることによって、「あなたに気づいている、あなたを気にかけている(=無視するつもりはありません)」という思惑を伝えるポジティブ・ポライトネス行動になります。