「話を聞く=言われた通りにやる」ではない

カバーの構造自体は複雑ではない。結露しやすいことは現場の人間ならば分かっている。しかし、誰も手をつけなかったのだ。医療には同様の問題がまだまだあると松上は言う。

「医療機器の世界では、高性能な機器を作りました、で終わっているのが多い。その製品をどのように患者さんに役立ていくのかの視点が欠けている気がするんです」

医療機器はデジタル化が進み、多くのデータを蓄積できるようになった。そのデータを生かし切っていないというもどかしさがある。

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 22杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 22杯目』

「記録作業をできるだけ自動化、省力化するのは大前提。一旦すべてのデータを集めた上で、医師や看護師さんに合う情報を出せば、仕事の効率化につながる。そこで問題になるのがソフトウエアが高いこと。すべてをそろえるとすごい値段になるし、どのように(病院という現場に)実装するのか、作る側が意識していない場合も多い」

ソフトウエアについてはAIを駆使することでクリアできるかもしれないと松上は考えている。松上はやりたいことはたくさんあるんですよねと前向きだ。

ふと鳥取に来てから、人との接し方が変わったと思うことがある。

「以前は、完全に耳栓していたような状態でした。話を聞くことと言われた通りにすることを同じだと考えていたんです。いろいろと話を聞いたほうが自分のためになると気がつきました」

遅すぎますよね、と笑う。

何度かの挫折を経た後の居場所

松上は、患者が退院して自宅に戻ったあとの生活を快適にすることにも目を向けている。その鍵となるのはIoT――あらゆる物がインターネットを通じてつながること――。

「回路カバーの開発で改めて気がついたのは、患者さんのケアをされている方々の負担が大きいこと。体力だけでなくメンタルもすり減らしている。患者さんの社会復帰に加えて、ご家族の生活をできるだけ元に戻してあげたい。

機器が病院とつながっていれば、ご家族の生活に自由度が増す。患者さんもご家族も海外旅行に普通に行くことができるのが理想だと思っています」

それこそ、ぼくたちがやらなければならないことなんですよねと松上は力を込める。

何度かの挫折を経て、彼は本当に必要とされる居場所を見つけたのだ。

松上紘生(まつがみ・ひろみ)

1982年福岡県出身。福岡医科歯科技術専門学校臨床工学技士科卒業後、2004年鳥取大学医学部附属病院に入職。2015年、鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻博士課程を修了。2011年よりM Eセンター臨床工学技士長に就任し、現在に至る。医療機器の操作、保守、管理のスペシャリストとして活躍する一方、患者目線に立った機器の改善提案や、院内外における臨床工学技士のレベル向上を目的とした研修会の開催などにも積極的に取り組んでいる。

(写真=馬場磨貴)
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