「脱中国」の逆を行くユニクロ
日本の国際企業におけるスター経営者は、大きく「グローバル経営者」と「地政学的経営者」に分かれる。
孫正義氏の「スターゲート」構想は、AIインフラへの巨額投資として壮大なビジョンを持つが、その視線は日本にはない。孫氏の眼中には、日本の産業基盤・雇用・技術主権をどう守るかという問いは必ずしも入っていない。
また、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正氏は、中国市場依存を正当化して、脱中国を深める日本政府の方針にむしろ真っ向から反対する論陣を張ることもある。
どちらも、日本の枠を出たグローバルな視点を持つゆえに、安全保障の観点で政治リスクを被り、あるいは政治リスクをものともしない経営者である。その裏には、「脱日本企業」の視点があり、経営の立ち位置が必ずしも日本にはない。
グローバル経営者は市場を選べるが、国家は場所を選べない。日本企業として「逃げられない」という感覚を経営の核に置けるかどうかに、地政学的経営者とグローバル経営者の本質的な分岐点がある。
これからは地政学的視点を持つ人材が輝く
日本にユーラシア・グループのような民間地政学シンクタンクが育つためには、専門家が知見を売れる需要の形成、官界・学界以外への人材の出口、そしてインテリジェンスを産業として認める文化が必要である。日本においても「産業としての地政学分析」を育てていく必要がある。
だが、世界環境の激変は、制度が整うのを待ってくれない。地政学リスクはすでに今の経営を大きく揺り動かしている。
それでも、今すぐできることは3つある。
1つめは、外部のインテリジェンスにカネを払うことを惜しまないことだ。ユーラシアグループをはじめとする専門機関のレポートを読む習慣を持つ経営者と持たない経営者では、リスク認識の精度が年々開いていく。スタートとして、専門家の意見を広く聞く場を持ち、危機感を共有することが必要だ。
2つめは、社内に地政学を担当できる人材を育てることだ。大企業であれば、情報自体は外部に頼るにしても、採用において地政学の知見がある社員を採用することは必須である。経済安全保障は法務・財務と同格の経営機能だという認識を持ちたい。
3つめは、自社が関わっているサプライチェーンを地政学の見地から分析し、リスクを可視化することである。どこに脆弱性があるかを可視化するだけで、優先的に打つべき方策が見えてくる。
日本のMBAカリキュラムにも経団連の研修にも、地政学は今のところ本格的には組み込まれていないようだ。だからこそ、今それを身につけた人間が先行者利益を得る。地政学リテラシーはもはや安全保障の専門家だけの教養ではなく、これからのビジネスパーソンにとって、財務と並ぶ必須の実務能力である。
安全保障の最前線は、南西諸島だけではない。工場、研究所、データセンター、物流網、そして経営者の判断の中にある。その最前線に立つ覚悟を持てるかどうか。日本のビジネスの未来は、そこが新たな出発点となるべき時期に来ている。

