「情報を買う文化」が育っていない
第一は需要側の問題だ。日本企業がそもそも外部の地政学分析にお金を払う文化がない。政治リスクはマスコミや所管官庁が教えてくれるもの、あるいは商社の情報網に頼るもの、という発想が根強い。産業が育たないのは、買う側が育っていないからだ。
第二は供給側の問題だ。日本の政治学者・安全保障専門家が自分の知見を磨いて発信したくとも、基本的に官界・学界・メディアの3つしか場がない。知見を民間ビジネスとして自立させるキャリアパスが存在せず、ブレマー氏のような「学者起業家」が生まれる土壌がない。
第三は情報文化の問題だ。インテリジェンスを「売買するもの」ではなく「官が独占するもの」とみなしてきた戦後感覚が、民間のインテリジェンス産業の発展を阻み、「情報にカネを出す」という文化形成を阻害してきた。
その結果、地政学の知見は経営から切り離されたまま今日に至っている。
三菱電機、サントリーはすでに動いている
もちろん、日本企業が動いていないわけではない。三菱電機は経済安全保障担当役員を設置し、サントリーはインテリジェンス部門を社内に立ち上げて、「地政学を経営の内側に取り込む」という発想の転換を経営戦略として示している。
それらに共通するのは、外部に情報を依存するのではなく、自社内に分析・判断機能を持つという方針だ。各国の政治状況・規制動向・制裁リスクを常時モニタリングし、それを経営判断に直接接続する。かつて「法務部」「コンプライアンス部」が設置されたように、「地政学・経済安全保障部門」は今後の標準的な経営インフラになっていく。
「うちは中小企業だから関係ない」という気持ちは痛いほどわかる。目先のことで「かつかつ」のときに「余計なことを言うな」と思われるだろう。だが、大企業のサプライチェーンを支える中小企業こそ今はリスクの集中点になりやすい。一次サプライヤーが地政学的打撃を受けたとき、二次・三次の取引先に与える打撃は深刻だ。
結局、規模が小さいほど、情報の先行取得が生死を分ける。今はそういう時代である。

