「大地・OS・身体」という重要な意味

本書では、フィジカルAIを「大地・OS・身体」の3つの層で読み解いた。

第1の「大地」は、半導体、半導体製造装置、データセンター、電力インフラなど、フィジカルAIが成立する前提条件を提供する層である。米国はエヌビディアという「脳」を作るが、その脳が動くためには「大地」が必要だ。世界中の半導体製造装置の多くが日本企業の技術なしには成立せず、世界トップシェアを誇る東京エレクトロンが象徴的な位置を占める。「計算資本の前提条件を日本企業が握っている」という事実が、ここから浮かび上がる。

第2の「OS」は、現場の運用設計を担う層である。データを束ね、流れを設計し、判断基準を埋め込み、制御と電力を統合する。生成AI時代に米国メガテックが完全に握りきれなかったのが、この層である。なぜなら、現場ごとに固有の制約・規制・文脈があり、汎用AIだけでは現場OSは作れないからだ。地味だが代替しにくく、いったん入り込めば切り替えが難しい、長期的な競争優位の源泉である。

タブレットで3Dロボティクスアームモデルプロトタイプに取り組むエンジニア
写真=iStock.com/Happy Kikky
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日本が握る「三層の急所」とは

第3の「身体」は、AIが現実世界に触れる瞬間を担う層である。「動かす・見る・精密化する・人につなげる」という物理実装の全工程を担う。製造現場の最上流データ取得を半世紀かけて独占し、平均年間給与2039万円という驚異的な社員還元を実現するキーエンスは、その象徴例だ。0.1ミリのズレで製品が損壊する物理世界では、こうした精度こそが代替不可能な障壁となる。そして身体層の最終到達点に位置するのが、「人間の身体との融合」を担う領域である。

ここで問うべきは、「日本は何を持っているのか」という問いである。米国はエヌビディアを中核にWFM(世界基盤モデル)という「脳」を持ち、中国はEVやドローンを出自とするヒューマノイドが量産という「規模」を持つ。では、日本は何を持つのか。

その答えが、三層への日本企業の集積である。日本は「人工知能が現実世界に触れる瞬間の全工程」を支える技術と企業の集積を持つ。これは、フィジカルAIという産業において、最終的に価値が発現する領域そのものを押さえているということである。条件が揃い、独自の競争条件が提示できれば、米国や中国を凌駕する可能性すらある。